第55回通関士試験(2021年10月3日実施) 合格体験記
6か月の準備期間で何とか合格できましたので、時系列に体験記を書いてみました。
2021年4月
受験勉強スタート。
・貿易実務の講師をやっているので、貿易業界唯一の国家資格である通関士を取っておいた方が講義に説得力がつくだろうと考え、受験することとした。
・本番までの6か月を3つのステージに分けた。
(1) Input期:4月、5月
(2) Output期:6月、7月、8月
(3) 直前期:9月
・まずはどういう知識が必要になってくるのかを、この本を読んで確認。コンパクトにまとまっており、全体の流れを理解するのに丁度よい。
受験勉強の中盤に、ともすれば断片的な知識の詰め込みに陥った場合に、俯瞰的に知識を振り返るのにも重宝した。
「通関士」合格の基礎知識
片山 立志 (著)
日本能率協会マネジメントセンター
・「通関士ポータル」を一通りみて、過去問を確認。https://www.kanzei.or.jp/portal/trend.htm
勉強していない状態でどこまでできるか、試してみた。既に取得している AIBA認定貿易アドバイザー、貿易実務検定A級、STC Expertの知識とはほとんど無縁(ゼロではないが)の資格ということがよく分かった。
・独学では無理と思ったので、資格学校を探す事とし、資格学校のHPを見たり、パンフなどを取り寄せた。TAC、LEC、フォーサイト、マウンハーフなど。
・この時期は「通関士ポータル」の過去問の解説で言及している通関業法や関税法などについて、実際の法令の条文をいちいち確認していた。 https://elaws.e-gov.go.jp/
しかしこれは時間の無駄と思ったので、法令そのものを見に行くのは早々に止めた。テキストや問題集の解説に書かれている「法令の趣旨」を理解しておく方が重要と気づいた。(条文の書きぶりを確認したのは、それはそれで有益だった。)
5月
・TACの「通関士スピードテキスト」を、収録されている確認テストなどを行いながら通読。通関士試験のテキストは他にも市販のものがあるが分厚く、通読するだけでも時間がかかる。このテキストは他社にくらべるとコンパクトにまとまっており、過去問やチェック問題も掲載されているので、インプットを進めるには充分。
通関士 スピードテキスト
TAC株式会社(通関士講座) 編著
・資格学校を利用するにしても、通信講座だけだと多分グタグタになって挫折すると思い、コロナ禍でも通学クラスを設定していたTACに申し込んだ。中小企業診断士受験の時もお世話になったスクール。
・ネットで通関士試験の情報収集をすると、申告書問題が最大の難関との事だったのでTACでは「通関実務パック」(7月開講)に申し込んだ。このコースは試験科目の内「通関実務」に特化したコース。本科(全部入りコース)の最終パートの講義を部分受講という形。
5月の時点ではTACの通関士本科の "短縮コース" もこれからのスタートだったが、「通関業法」「関税法」は講義を聞いても結局テキストでの復習が必要になるので、これら2科目は独学で行うこととした。
・ネットで話題の通関士の勉強会もあるが、手が回りそうもないのでパス。TAC一本に絞ることとした。
・TACの通関士講座の日程表で、すでにスタートしている本科(全部入りコース)の進捗状況がわかるので、それをペースメーカーとして「通関士スピードテキスト」を読み進めた。
・申告書問題については、早い時期からこの問題集に着手。3回は繰り返した。
・収録されている申告書問題の後半の部分は、直近の出題傾向とはかけ離れたパズル的な問題もあったが、すべての問題について回答の導き出し方が丁寧に書かれていた。申告書問題については、本書のおかげで「開眼」できたといっても過言ではない。
通関士試験「通関実務」集中対策問題集
ヒューマンアカデミー
通関業法、関税法は独学で行うこととしたので、知識をInputしたら、すぐOutputしてみることが重要。この本で TACの「通関士スピードテキスト」を読んだ範囲を復習。
どこでもできる通関士選択式徹底対策
片山 立志 (著) 日本能率協会マネジメントセンター
こうして4月、5月のInput期はあっという間に経過した。
6月
・6月からはOutputに重点を移した。「通関士ポータル」から直近5年分の過去問をダウンロードして、アクセアで印刷、解いてみては「通関士ポータル」の解説と照合していった。
もちろん、自信をもっての正解はできない。間違っていた部分はA4のノートに書き留めてゆくこととした。このA4のノートが結局は「サブノート」となる。
なお、あまり古い過去問は法令が変わっていたり、直近の出題傾向に沿っていない部分があるので、直近の5年分に絞った。過去問はなんだかんだで5回は解きなおした。
・市販の「過去問題集」にも取り組みを始めた。この本は第1回~第53回試験の中から重要な論点を含む問題を精選して、現行の法令に合うようにして掲載されている。解説が充実しており、正誤の理由を理解できない問題は即、回答をみて覚えてしまうこととした。
しいて言えば、通関業法、関税法のInput源は「通関士スピードマスター」というよりは本書の解説部分だったともいえる。(よく「同じ問題集を繰り返しすと覚えてしまう」と心配する声があるが、覚えてしまう程やるなら上等。)
ただし後から振り返ると、直近の傾向には対応していない部分(例えば本試験では通達からの出題が増えている)もあるので、資格学校での最新傾向の把握は必要。
なお、解説に変なものがあったので出版社に問い合わせたところミスを認め、後日出版社のHPに正誤表として掲載された。
「通関士教科書 通関士 過去問題集」
ヒューマンアカデミー / 笠原 純一
7月
・7月3日からTACの「通関実務パック」の講義がいよいよ開始。Webでも通学でも受講できるので、同じ講義をWEBと通学、別々の講師で両方受講した。
・「通関実務パック」の冒頭は3回に分けて貨物分類の講義。
・英語の辞書をアルファベットのAの単語から覚えるように、この種の本の1類から順に覚えてゆくことなど、とてもできない。基本的には問題練習を通じて会得してゆくしかない。
・貨物分類は「通関実務」での出題がメイン。それも、①知識問題として覚えておかないと回答できない「〇〇は第**類に属するか否か」といった問題と、②通関書類作成の際に、別冊冊子の「部注」を読む時間を省略できるための前提知識という2つのケースがある。
・加工度の高いものほど後の類。
・ざっくりと語呂合わせを考えたりした。ただし、代表的なものしか語呂合わせのフレーズには入れられないので、それ以外の貨物が芋づる式に想起できるようにする必要がある。
https://www.customs.go.jp/tariff/2017_4/index.htm
1 いきている動物
2 にく
3 さかな
4 4時起きの酪農製品
5 胃腸にGO
6 六本木
7 なま野菜
8 🍊
🍊 8の字に似てる
9 九コーヒー (Key Coffee)、急須のお茶
10 十穀米
11 杵でつく穀粉
12 とにかく大豆
(中略)
16 いろんな肉魚の調整品
17 いーな、砂糖菓子
18 ここは一番
19 (詰め物をしたパスタ:申告書の問題集によく出る)
20 (調整野菜:申告書の問題集によく出る)
21 (調整食品:申告書の問題集によく出る)
22 夫婦でエッチルアルコール
25 煮込んで塩、土砂
(中略)
33 サンサン朝シャン
34 三四郎は単純なやつを好まない(単一の化合物は含まない)
(中略)
39 サンキュー、プラスチック (生活を豊かにするプラスチック製品に感謝)
40 四輪のゴムタイヤ
41 良い原皮
42 (かばん:申告書の問題集によく出る)
43 予算無く毛皮変えない
(中略)
48 しわが寄った紙
49 よく読む読売新聞
(中略)
57 コーナーマット
61 (メリヤス編み又はクロセ編み衣類:申告書の問題集によく出る)
62 (メリクロ以外の衣類:申告書の問題集によく出る)
63 無残な古着
64 水虫になる靴
65 婿養子の帽子
66 六
六 傘という漢字に似てる
(中略)
68 牢屋で石責め (江戸時代の拷問)
69 ろくろで陶磁器
70 ガラスの向こうのナレーター(ラジオスタジオのイメージ)
71 ナイルの宝石貴金属
72 夏より暑い鉄鋼所
73 波板は鉄鋼製品
(中略)
82 やっぱり工具は非金属
83 闇金じゃない卑金属製品
84 発進!マシンガー
85 箱に入った電気製品
86 ハロルドは機関車?
87 花形自動車
88 パパはパイロット
89 船舶
90 紅(くれない)の光学、測定、医療機器
91 (時計)
92 国に帰って楽器やる
93 (武器)
94 窮した家具屋
95 (玩具・スポーツ用品)
96 (雑品)
97 (骨董)
TACの講義、続いて8月中旬まで8回に分けて通関実務の応用講義。
前半の3回が「計算対策」。
申告書問題に取り組む前の、課税価格の計算や関税額の計算等。
関税協会からも同様の問題集が発売されているが、TACのテキストを繰り返し解きなおすこととし、他には手を出さなかった。
8月
・このころTACのオプション講義をいくつか受講したので、その復習に結構忙しくなってくる。
・8月1日の午前と午後に、オプションの「通関実務解法テクニック講座」を受講。1日で過去5年の通関実務の過去問をやるという強行軍。
テクニック講座と言いながら、特に〇〇メソッドが有るわけではなかったが、通関実務では最後の問題から申告の手前まで順番に解いて行き40分、残った時間で第1問(輸出申告書)20分、第2問(輸入申告書)40分に取り掛かるのがお勧め、との助言が参考になった。このテキストは、講義終了後も3回ほど繰り返した。
・復習を繰り返す中で、通関書類の問題は (1)問題文の選択肢であるHSコードに該当する部分を、別冊の関税表の中から探してマークしておくこと(答えはその中に必ずある)、(2)与件のインボイス各品目のHSコードを(1)を頼りに特定すること、(3) 問題冊子か別冊の余白部分を利用して、あたかもエクセルの表のような形で個々の課税価格を計算する、という自己流のメソッドを会得できた。本当はこういうベタなテクニックを教えてほしかった。
通関実務の応用講義、後半の5回は様々な貨物について、申告書問題の練習。輸入が2回、輸出が3回。
前述の 通関士試験「通関実務」集中対策問題集(ヒューマンアカデミー)をやっていたおかげで、すんなりと頭に入った。
前述通り、TACでは教室とWebで別の講師の講義も聞くことができたので、内容が理解しやすかった。
ただしTACの「パック講座」受講生は本科生とは違いメールでの質問ができなかったので、質問がある場合は教室講座に出席して講師に直接聞く必要があった。
8月20日に単発のオプション講座で語群選択大予測+α講座。
8月中旬に某社と関税協会の模試を受講。いづれも通信で郵送。
某社の模試、特に通関実務は、本試験ではそもそも問題冊子が本試験のものより一回り小さい、本試験では別冊として配布される関税表の部分が問題の中に挟み込んであり非常にページがめくりにくい。また、通関実務の問題も、最近の本試験の傾向では税番が若い順に並んでいるのに、こちらはそういうわけでもない。かなり手抜きの印象。周辺の検定ビジネスを広げすぎて、本来の通関士に手が回らなくなっている印象。
試験範囲が膨大なので当初はサブノートを作るつもりはなかったが、答練や過去問を繰り返しやる中で、間違えた部分をメモして復習してゆく過程でA4レフィルのバインダーにまとめていった。これが結果的にサブノートとなった。
8月20日に1回の単発講義で法令改正点のオプション講義を受講。今回は余り変更点はなかった。
8月末からTACでは「答練」がスタート。通関業法、関税法、通関実務の答練と解説を1セットとして、延べ3セット、本番と同じボリュームの問題を解くこととなるように、カリキュラムが組み立てられている。
9月
・本試験まで1ケ月の直前期。
・9月5日 TACの公開模試を教室で受ける。初めて全科目を、本番と同じ時間帯に受験。時間配分などを確認した。フォーサイトのテキストを持っている人が目立つ。後日、合格判定をもらい、自信となる。プリントアウトして本試験に「お守り」として持参する。
・9月19日に単発のオプション講座で「通関業法+関税法 直前重要ポイント講義」を受講。通関業法と関税法は独学だったので、頭が非常に整理できた。できれば7月末頃に実施してほしい内容だった。
・9月20日に、オプション講座として「直前チェック模試」。文字通り直前であるため、本番と同じ時間帯での受験後、自己採点。お土産に講師から湯島天神の合格祈願鉛筆を頂く。
2021年10月3日
本番。早めに家を出る。Google Mapで会場の駒場東大付近を見ると、コンビニなど全くない。そこで、結構大量のおにぎり、菓子パン、カロリーメイトなどを途中で調達して持参。会場には8:30頃到着したが、教室に入れたのは9時ちょっと前。
通関業法、関税法は手ごたえあり。通関実務は輸出・輸入申告書(第1問、第2問)は手ごたえあったが他は全滅の感触。帰宅後は受験予備校の回答速報で自己採点することもなく、持ち帰った問題冊子は合格発表まで封印することとした。
なお、通関実務で、問題冊子と回答冊子の空白のページをびりっと破って計算用紙にしたのは自分くらいだった。
11月26日(金)
合格発表日。試験が10/3で、マークシートのみでなぜ合格発表に2か月もかかるのか不明。
午前8:30、官報をネットで恐る恐る見る。最初見たページには自分の受験番号が無く、「やっぱりダメだったか」と思ったが、よく見るとページ上部に◀▶のページ送りボタンがある。これでページを進めると私の受験番号と名前が掲載されていた! ネットで見られる官報はpdfのページが連続しておらず、1ページ単位でしか閲覧できないのだ。
11月28日(日)夕方、書留で合格証が配達される。
12月。年末の大掃除を兼ねてこれまで使っていた教材やダウンロードした過去問の印刷物を処分。
貿易業界の制度や法令は日進月歩。古い資料は処分するが、常に最新の情報をアップデートしてゆく必要がある。