ウィーン売買条約とは、「国際物品売買契約に関する国際連合条約United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods 」(通称:国際物品売買契約条約、以下CISG)のこと。
国際間の物品売買契約を規律する統一的なルールを採択することにより、国際取引の発展を促進することを目的として、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)により起草され、1988年1月1日に発効している。
アメリカ、中国、韓国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダをはじめとする世界89カ国が加盟(2019現在)している一方、主要国では日本とイギリスのみが未加盟だったが、2009年8月1日から日本でも発効した。
イギリスは未加盟である。
日本での発効により我が国では、外国貿易取引においてウィーン売買条約が自動的に適用される。
また、日本法が準拠法となる場合は、相手国がウィーン売買条約に加盟していなくても、適用される。
条約が適用される貨物取引で日本の裁判所に訴えられた場合、我が国の裁判所はこの条約に直接基づいて裁判を行う。法務部門が手薄な中小企業でも共通の売買取引のルールで取引ができる。
世界の主要貿易国が加盟しているため、契約書に特に謳わなくても輸出先国の契約法規に優先してCISGが適用される。契約に至る以前の取引の申し込み段階から自動的にCISGが適用される。契約書にCISGを適用しない旨規定することができる。
外務省HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty169_5.html
http://www.moj.go.jp/content/000001924.pdf
ジェトロQ&A http://www.jetro.go.jp/world/japan/qa/import_11/04A-010709
下記は外務省訳。青字は重要条文、赤字はコメント。
第1部 適用範囲及び総則
第1章 適用範囲
第1条
(1) この条約は、営業所が異なる国に所在する当事者間の物品売買契約について、次のいずれかの場合に適用する。
【注】ウイーン売買条約は、企業が行う貿易取引に適用される。しかも「物品」の売買が対象である。
(a)これらの国がいずれも締約国である場合
【注】当事者の所在する国がいずれも締約国である場合は、自動的に(This contract is subject to CISG といった文言が契約書に無くても)ウィーン売買条約が適用される。
(b)国際私法の準則によれば締約国の法の適用が導かれる場合
【注】当事者の双方または一方がウィーン売買条約に加盟していない国の企業であっても、契約上締約国の法が適用される場合には、ウィーン売買条約が適用される。 ただし95条により、この(b)を適用しないことを留保している国がある (アメリカ、中国、チェコ共和国、シンガポールなど)。
(2)当事者の営業所が異なる国に所在するという事実は、その事実が、契約から認められない場合又は契約の締結時以前における当事者間のあらゆる取引関係から若しくは契約の締結時以前に当事者によって明らかにされた情報から認められない場合には、考慮しない。
(3) 当事者の国籍及び当事者又は契約の民事的又は商事的な性質は、この条約の適用を決定するに当たって考慮しない。
第2条
この条約は、次の売買については、適用しない。
(a) 個人用、家族用又は家庭用に購入された物品の売買。ただし、売主が契約の締結時以前に当該物品が)そのような使用のために購入されたことを知らず、かつ、知っているべきでもなかった場合は、この限りでない。
【注】 個人用に購入された物品の売買(いわゆる個人輸入の場合など)には適用されない。サービスの提供にも適用されない。
(b)競り売買
(c)強制執行その他法令に基づく売買
(d)有価証券、商業証券又は通貨の売買
(e)船、船舶、エアクッション船又は航空機の売買
【注】船は国によっては不動産に準じた登記等の対象となるので、ウィーン売買条約の対象からは外されている。
(f)電気の売買
第3条
(1) 物品を製造し、又は生産して供給する契約は、売買とする。ただし、物品を注文した当事者がそのような製造又は生産に必要な材料の実質的な部分を供給することを引き受ける場合は、この限りでない。(2) この条約は、物品を供給する当事者の義務の主要な部分が労働その他の役務の提供から成る契約については、適用しない。
【注】委託生産の様に、物を製造又は生産して供給する契約は売買とみなされて、ウィーン売買条約の対象となるが、物品を発注した当事者が製造又は生産に必要な材料の実質的な部分を供給する場合はこの限りでない。
第4条
この条約は、売買契約の成立並びに売買契約から生ずる売主及び買主の権利及び義務についてのみ規律する。
【注】ウィーン売買条約は、契約若しくはその条項又は慣習の有効性や、売却された物品の所有権の帰属、CIFやFOBなどの貿易条件は定めていない。
この条約は、この条約に別段の明文の規定がある場合を除くほか、特に次の事項については、規律しない。
(a)契約若しくはその条項又は慣習の有効性
(b)売却された物品の所有権について契約が有し得る効果
第5条
この条約は、物品によって生じたあらゆる人の死亡又は身体の傷害に関する売主の責任については、適用しない。
第6条
当事者は、この条約の適用を排除することができるものとし、第12条の規定に従うことを条件として、この条約のいかなる規定も、その適用を制限し、又はその効力を変更することができる。
【注】 ウィーン売買条約は契約書にその適用を謳わなくても、当事者が契約でこの条約の適用を排除(第6条)しない限り適用される。契約書を作成せず Proforma InvoiceにバイヤーがカウンターサインしたものをFAXで入手することで契約を確認し、船積みを行うことがよくある。しかし、この場合でもウィーン売買条約の内容があたかも裏面約款と同様に適用されることになるので注意が必要。
したがって、ウィーン売買条約を全面的に適用しないのであれば、例えば “This Contract will NOT be governed by the United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods.” と、部分的に変更するのであればその旨を、契約書に明記しておく必要がある。
なお、売買契約書で「本契約の準拠法は日本法とする」と定めても、必ずしもウィーン売買条約の適用は排除されない。憲法第98条2項の解釈により、条約に対応する国内法がなくても条約が国内法に代わって適用されるためである。
一方、インコタームズは民間(国際商工会議所:ICC)の貿易条件に関するルールゆえ、これに沿って貿易条件を解釈するためには売買契約書に、「本契約中のFOB, CIF等の用語の解釈はインコタームズによる」旨を書いておく必要がある。
第2章 総則 (第7条~第12条)
第7条
(1) この条約の解釈に当たっては、その国際的な性質並びにその適用における統一及び国際取引における信義の遵守を促進する必要性を考慮する。
(2) この条約が規律する事項に関する問題であって、この条約において明示的に解決されていないものについては、この条約の基礎を成す一般原則に従い、又はこのような原則がない場合には国際私法の準則により適用される法に従って解決する。
【注】ウィーン売買条約に規定がない場合は、ユニドロワ国際商事契約原則などを確認した後に、初めて国内法の適用を検討する、という意味。
第8条
(1) この条約の適用上、当事者の一方が行った言明その他の行為は、相手方が当該当事者の一方の意図を知り、又は知らないことはあり得なかった場合には、その意図に従って解釈する。
【注】 たとえば、$1,000/kgが国際相場の商品を売主が間違って$10/kgでオファし、買主がそれは$1,000/kgのミスと知りながら$10/kgで承諾した場合でも、買主は売主の意図を知っていたのだから$1,000/kgの契約として解釈される。
(2) (1) の規定を適用することができない場合には、当事者の一方が行った言明その他の行為は、相手方と同種の合理的な者が同様の状況の下で有したであろう理解に従って解釈する。
【注】微妙な場合は「同じ種類の合理的な人の理解」で判断する。
(3) 当事者の意図又は合理的な者が有したであろう理解を決定するに当たっては、関連するすべての状況)(交渉、当事者間で確立した慣行、慣習及び当事者の事後の行為を含む。)に妥当な考慮を払う。
第9条
(1) 当事者は、合意した慣習及び当事者間で確立した慣行に拘束される。
【注】合意した慣習やインコタームズなど当事者間で確立した慣行は、ウィーン売買条約に優先する。
(2) 当事者は、別段の合意がない限り、当事者双方が知り、又は知っているべきであった慣習であって、国際取引において、関係する特定の取引分野において同種の契約をする者に広く知られ、かつ、それらの者により通常遵守されているものが、黙示的に当事者間の契約又はその成立に適用されることとしたものとする。
【注】慣習が黙示的に適用される。
第10条
この条約の適用上、
(a)営業所とは、当事者が二以上の営業所を有する場合には、契約の締結時以前に当事者双方が知り、又は想定していた事情を考慮して、契約及びその履行に最も密接な関係を有する営業所をいう。
(b)当事者が営業所を有しない場合には、その常居所を基準とする。
第11条
売買契約は、書面によって締結し、又は証明することを要しないものとし、方式について他のいかなる要件にも服さない。売買契約は、あらゆる方法(証人を含む。)によって証明することができる。
【注】ウィーン売買条約では契約の成立に書面は要求されないが、ロシアでは売買契約は書面を要求、米国統一法典ではUS$5,000以上の売買契約は書面が要求。従い、契約書は用意した方が良い。
ロシアや米国相手では実務で争いが起きた場合に備え、11条の規定を適用しないことを宣言して書面契約を必要とすることも一考(12条、96条)。
第12条
売買契約、合意によるその変更若しくは終了又は申込み、承諾その他の意思表示を書面による方法以外の方法で行うことを認める前条、第29条又は第二部のいかなる規定も、当事者のいずれかが第96条の規定に基づく宣言を行った締約国に営業所を有する場合には、適用しない。当事者は、この条の規定の適用を制限し、又はその効力を変更することができない。
第13条
この条約の適用上、「書面」には、電報及びテレックスを含む。
【注】emailについては言及されていない。
第2部 契約の成立
第14条
(1) 一人又は二人以上の特定の者に対してした契約を締結するための申入れは、それが十分に確定し、かつ、承諾があるときは拘束されるとの申入れをした者の意思が示されている場合には、申込みとなる。
申し込みは、物品を示し、並びに明示的 又は黙示的に、その数量及び代金を定め、又はそれらの決定方法について規定している場合には、 十分に確定しているものとする。
・最低限、何をいくつ、いくらで、の確定は必要である。
(2) 一人又は二人以上の特定の者に対してした申 入れ以外の申入れは、申入れをした者が反対の意 思を明確に示す場合を除くほか、単に申込みの誘 引とする。
第15条
(1) 申込みは、相手方に到達した時にその効力を生ずる。
(2) 申込みは、撤回することができない場合であっても、その取りやめの通知が申込みの到達時以前に相手方に到達するときは、取りやめることができる。
【注】申込みは到達主義
第16条
(1) 申込みは、契約が締結されるまでの間、相手方が承諾の通知を発する前に撤回の通知が当該 相手方に到達する場合には、撤回することができる。
(2) 申込みは、次の場合には、撤回することができない。
(a) 申込みが、一定の承諾の期間を定めることによるか他の方法によるかを問わず、撤回することができないものであることを示している場合
(b) 相手方が申込みを撤回することができないものであると信頼したことが合理的であり、かつ、当該相手方が当該申込みを信頼して行動した場合
申し込みが撤回可能かどうかは、オファー文書に明確に記載しておくことが望ましい。
第17条
申込みは、撤回することができない場合であって も、拒絶の通知が申込者に到達した時にその効力を失う。
第18条
(1) 申込みに対する同意を示す相手方の言明その他の行為は、承諾とする。沈黙又はいかなる行為も行わないことは、それ自体では、承諾とならない。
【注】ウィーン売買条約は当事者の商習慣を重んじるスタンスを取っている。そして、オファを受けてそれに対して黙っていることが承諾になる場合も、現実的には考えられる。たとえば長期にわたって継続的な取引を行っており、顧客の在庫が発注点を下回ると出荷指示書がFAXされてきて、そのFAXに特段返事をすることなく出荷することを繰り返している場合などでは、「沈黙」も承諾として扱われる場合がありうる。
(2) 申込みに対する承諾は、同意の表示が申込者に到達した時にその効力を生ずる。同意の表示が、申込者の定めた期間内に、又は期間の定めがない場合には取引の状況(申込者が用いた通信手段の迅速性を含む。)について妥当な考慮を払った合理的な期間内に申込者に到達しないときは、承諾は、その効力を生じない。口頭による申込みは、別段の事情がある場合を除くほか、直ちに承諾されなければならない。
(3) 申込みに基づき、又は当事者間で確立した慣行若しくは慣習により、相手方が申込者に通知することなく、物品の発送又は代金の支払等の行為を行うことにより同意を示すことができる場合には、承諾は、当該行為が行われた時にその効力を生ずる。ただし、当該行為が(2)に規定する期間内に行われた場合に限る。
【注】CISG 18条(3)は「書式の戦い」に関連する。特に継続取引だと、輸出者が自社の裏面約款付きフォームでOfferを行い、スペック、数量、金額などについてはそのままだが、フォーム自体を輸入者の裏面約款付きフォームで送ってくることがある。それに対して輸出者が何も反応せず、船積をしたりすると輸入者のフォームに記載された裏面約款を承諾したことになってしまう。「注文請書」を相手のフォームで送ってきた場合は、直ちに「貴社のフォームは承諾できない、当社のフォームで再送せよ。」として自社のフォームをとにかく送り付けておくことが重要。
第19条
(1) 申込みに対する承諾を意図する応答であって、追加、制限その他の変更を含むものは、当申込みの拒絶であるとともに、反対申込みとな る。
(2) 申込みに対する承諾を意図する応答は、追加的な又は異なる条件を含む場合であっても、当該 条件が申込みの内容を実質的に変更しないとき は、申込者が不当に遅滞することなくその相違について口頭で異議を述べ、又はその旨の通知を発 した場合を除くほか、承諾となる。申込者がその ような異議を述べない場合には、契約の内容は、 申込みの内容に承諾に含まれた変更を加えたも のとする。
(3) 追加的な又は異なる条件であって、特に、代金、支払、物品の品質若しくは数量、引渡しの場 所若しくは時期、当事者の一方の相手方に対する 責任の限度又は紛争解決に関するものは、申込み の内容を実質的に変更するものとする。
第20条
(1) 申込者が電報又は書簡に定める承諾の期間 は、電報が発信のために提出された時から又は書簡に示された日付若しくはこのような日付が示されていない場合には封筒に示された日付から起算する。申込者が電話、テレックスその他の即時の通信の手段によって定める承諾の期間は、申 込みが相手方に到達した時から起算する。
(2) 承諾の期間中の公の休日又は非取引日は、当該期間に算入する。承諾の期間の末日が申込者の営業所の所在地の公の休日又は非取引日に当たるために承諾の通知が当該末日に申込者の住所に届かない場合には、当該期間は、当該末日に続く最初の取引日まで延長する。
第21条
(1) 遅延した承諾であっても、それが承諾として の効力を有することを申込者が遅滞なく相手方 に対して口頭で知らせ、又はその旨の通知を発し た場合には、承諾としての効力を有する。
(2) 遅延した承諾が記載された書簡その他の書面 が、通信状態が通常であったとしたならば期限ま でに申込者に到達したであろう状況の下で発送 されたことを示している場合には、当該承諾は、 承諾としての効力を有する。ただし、当該申込者 が自己の申込みを失効していたものとすること を遅滞なく相手方に対して口頭で知らせ、又はそ の旨の通知を発した場合は、この限りでない。
第22条
承諾は、その取りやめの通知が当該承諾の効力の 生ずる時以前に申込者に到達する場合には、取りや めることができる。
第23条
契約は、申込みに対する承諾がこの条約に基づいて効力を生ずる時に成立する。
第24条
この部の規定の適用上、申込み、承諾の意思表示 その他の意思表示が相手方に「到達した」時とは、 申込み、承諾の意思表示その他の意思表示が、相手方に対して口頭で行われた時又は他の方法により 相手方個人に対し、相手方の営業所若しくは郵便送付先に対し、若しくは相手方が営業所及び郵便送付 先を有しない場合には相手方の常居所に対して届けられた時とする。
・郵便は相手の事務所に届けられたとき(担当者の机の上でなく、相手の事務所に配達されたとき。)
・e-mailは記述なし。 (相手方のメールサーバーのメールボックスに送信したメールが記録された時点と考えられる。)
第3部 物品の売買
第1章 総則
第25条
当事者の一方が行った契約違反は、相手方がその契約に基づいて期待することができたものを実質的に奪うような不利益を当該相手方に生じさせる場合には、重大なものとする。ただし、契約違反を行った当事者がそのような結果を予見せず、かつ、同様の状況の下において当該当事者と同種の合理的な者がそのような結果を予見しなかったであろう場合は、この限りでない。
第26条
契約の解除の意思表示は、相手方に対する通知によって行われた場合に限り、その効力を有する。
第27条
この部に別段の明文の規定がある場合を除くほか、当事者がこの部の規定に従い、かつ、状況に応じて適切な方法により、通知、要求その他の通信を行った場合には、当該通信の伝達において遅延若しくは誤りが生じ、又は当該通信が到達しなかったときでも、当該当事者は、当該通信を行ったことを援用する権利を奪われない。
【注】契約成立後になされる通信は発信主義
第28条当事者の一方がこの条約に基づいて相手方の義務の履行を請求することができる場合であっても、裁判所は、この条約が規律しない類似の売買契約について自国の法に基づいて同様の裁判をするであろうときを除くほか、現実の履行を命ずる裁判をする義務を負わない。
第29条(1)契約は、当事者の合意のみによって変更し、又は終了させることができる。(2)合意による変更又は終了を書面によって行うことを必要とする旨の条項を定めた書面による契約は、その他の方法による合意によって変更し、又は終了させることができない。ただし、当事者の一方は、相手方が自己の行動を信頼した限度において、その条項を主張することができない。
第2章 売主の義務
第30条
売主は、契約及びこの条約に従い、物品を引き渡し、物品に関する書類を交付し、及び物品の所有権を移転しなければならない。
【注】売主の3つの義務 ①物品引き渡し、②書類交付、③所有権移転義務を定めている。
所有権移転時期の詳細は定めていない。所有権移転について合意した時点で物理的な所有は移転していなくても所有権が移転するという考えもあれば(日本)、現実的な占有権が移転しなければ所有権が移転しないと考える国もある。
第一節 物品の引渡し及び書類の交付
第31条
売主が次の(a)から(c)までに規定する場所以外の特定の場所において物品を引き渡す義務を負わない場合には、売主の引渡しの義務は、次のことから成る。
(a)売買契約が物品の運送を伴う場合には、買主に送付するために物品を最初の運送人に交付すること。
【注】 複合輸送の場合は、最初の運送人に引渡されたときに、引渡しが行われたとされる。
(b)(a)に規定する場合以外の場合において、契約が特定物、特定の在庫から取り出される不特定物又は製造若しくは生産が行われる不特定物に関するものであり、かつ、物品が特定の場所に存在し、又は特定の場所で製造若しくは生産が行われることを当事者双方が契約の締結時に知っていたときは、その場所において物品を買主の処分にゆだねること。
(c)その他の場合には、売主が契約の締結時に営業所を有していた場所において物品を買主の処分にゆだねること。
第32条 【注】物品の運送が売買契約で定められている場合の売主の義務
(1) 売主は、契約又はこの条約に従い物品を運送人に交付した場合において、当該物品が荷印、船積書類その他の方法により契約上の物品として明確に特定されないときは、買主に対して物品を特定した発送の通知を行わなければならない。
(2)売主は、物品の運送を手配する義務を負う場合には、状況に応じて適切な運送手段により、かつ、このような運送のための通常の条件により、定められた場所までの運送に必要となる契約を締結しなければならない。
(3)売主は、物品の運送について保険を掛ける義務を負わない場合であっても、買主の要求があるときは、買主が物品の運送について保険を掛けるために必要な情報であって自己が提供することのできるすべてのものを、買主に対して提供しなければならない。
第33条 【注】物品の引き渡し時期
売主は、次のいずれかの時期に物品を引き渡さなければならない。
(a)期日が契約によって定められ、又は期日を契約から決定することができる場合には、その期日
(b)期間が契約によって定められ、又は期間を契約から決定することができる場合には、買主が引渡しの日を選択すべきことを状況が示していない限り、その期間内のいずれかの時
(c)その他の場合には、契約の締結後の合理的な期間内
第34条
売主は、物品に関する書類を交付する義務を負う場合には、契約に定める時期及び場所において、かつ、契約に定める方式により、当該書類を交付しなければならない。
売主は、その時期より前に当該書類を交付した場合において、買主に不合理な不便又は不合理な費用を生じさせないときは、その時期まで、当該書類の不適合を追完することができる。ただし、買主は、この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。
第二節 物品の適合性及び第3者の権利または請求
第35条
(1)売主は、契約に定める数量、品質及び種類に適合し、かつ、契約に定める方法で収納され、又は包装された物品を引き渡さなければならない。
(2)当事者が別段の合意をした場合を除くほか、物品は、次の要件を満たさない限り、契約に適合しないものとする。
(a)同種の物品が通常使用されるであろう目的に適したものであること。
(b)契約の締結時に売主に対して明示的又は黙示的に知らされていた特定の目的に適したものであること。ただし、状況からみて、買主が売主の技能及び判断に依存せず、又は依存することが不合理であった場合は、この限りでない。
(c)売主が買主に対して見本又はひな形として示した物品と同じ品質を有するものであること。
(d)同種の物品にとって通常の方法により、又はこのような方法がない場合にはその物品の保存及び保護に適した方法により、収納され、又は包装されていること。
買主が契約の締結時に物品の不適合を知り、又は知らないことはあり得なかった場合には、売主は、当該物品の不適合についてからまでの規定に係る責任を負わない。
【注】黙示的な目的に適していない場合も契約違反とされる恐れがあるので、2項は契約書で排除したほうがよい。
第36条
(1)売主は、契約及びこの条約に従い、危険が買主に移転した時に存在していた不適合について責任を負うものとし、当該不適合が危険の移転した時の後に明らかになった場合においても責任を負う。
(2)売主は、(1)に規定する時の後に生じた不適合であって、自己の義務違反(物品が一定の期間通常の目的若しくは特定の目的に適し、又は特定の品質若しくは特性を保持するとの保証に対する違反を含む。)によって生じたものについても責任を負う。
【注】物品が契に合致したものか否かは、危険負担が買主に移転した時点で判断する。危険移転後に判明した契約不適合についても、その不適合が危険移転の時に存在していれば売主は責任を負う。
第37条
売主は、引渡しの期日前に物品を引き渡した場合には、買主に不合理な不便又は不合理な費用を生じさせないときに限り、その期日まで、欠けている部分を引き渡し、若しくは引き渡した物品の数量の不足分を補い、又は引き渡した不適合な物品の代替品を引き渡し、若しくは引き渡した物品の不適合を修補することができる。ただし、買主は、この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。
第38条
(1)買主は、状況に応じて実行可能な限り短い期間内に、物品を検査し、又は検査させなければならない。
(2)契約が物品の運送を伴う場合には、検査は、物品が仕向地に到達した後まで延期することができる。
(3)買主が自己による検査のための合理的な機会なしに物品の運送中に仕向地を変更し、又は物品を転送した場合において、売主が契約の締結時にそのような変更又は転送の可能性を知り、又は知っているべきであったときは、検査は、物品が新たな仕向地に到達した後まで延期することができる。
第39条
(1)買主は、物品の不適合を発見し、又は発見すべきであった時から合理的な期間内に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行わない場合には、物品の不適合を援用する権利を失う。
(2)買主は、いかなる場合にも、自己に物品が現実に交付された日から二年以内に売主に対して(1)に規定する通知を行わないときは、この期間制限と契約上の保証期間とが一致しない場合を除くほか、物品の不適合を援用する権利を失う。
【注】買主は物品受領後実行可能な限り短い期間内に検品する義務を負い(第38条1項)、合理的期間内に不適合の性質を明確にした通知を輸出者に与えない場合は物品の不適合を主張できない。(第39条1項)。
ウィーン売買条約では物品の保証期間は「物品の引渡しから2年間」とされている。正確に言うと、バイヤーは不適合の通知を、物品が現実に引き渡された日から2年以内に行わないと、物品の不適合を主張できないという意味(第39条2項)。保証期間を例えば「one year after the date of shipment」とするのであれば、契約書に明確に記載する必要がある。
第40条
物品の不適合が、売主が知り、又は知らないことはあり得なかった事実であって、売主が買主に対して明らかにしなかったものに関するものである場合には、売主は、前二条の規定に依拠することができない。
【注】この場合、売主は買主が2年以内にクレームを提起しなかったからと言って、対応を断ることはできない。
第41条
売主は、買主が第三者の権利又は請求の対象となっている物品を受領することに同意した場合を除くほか、そのような権利又は請求の対象となっていない物品を引き渡さなければならない。ただし、当該権利又は請求が工業所有権その他の知的財産権に基づくものである場合には、売主の義務は、次条の規定によって規律される。
【注】第三者の権利の対象となっている物品も、買主が同意すれば対象となる。
第42条
(1)売主は、自己が契約の締結時に知り、又は知らないことはあり得なかった工業所有権その他の知的財産権に基づく第三者の権利又は請求の対象となっていない物品を引き渡さなければならない。ただし、そのような権利又は請求が、次の国の法の下での工業所有権その他の知的財産権に基づく場合に限る。
(a)ある国において物品が転売され、又は他の方法によって使用されることを当事者双方が契約の締結時に想定していた場合には、当該国の法
(b)その他の場合には、買主が営業所を有する国の法
(2)売主は、次の場合には、(1)の規定に基づく義務を負わない。
(a)買主が契約の締結時に(1)に規定する権利又は請求を知り、又は知らないことはあり得なかった場合
(b)(1)に規定する権利又は請求が、買主の提供した技術的図面、設計、製法その他の指定に売主が従ったことによって生じた場合
第43条
(1)買主は、第三者の権利又は請求を知り、又は知るべきであった時から合理的な期間内に、売主に対してそのような権利又は請求の性質を特定した通知を行わない場合には、前二条の規定に依拠する権利を失う。
(2)売主は、第三者の権利又は請求及びその性質を知っていた場合には(1)の規定に依拠することができない。
第44条
第39条(1)及び前条(1)の規定にかかわらず、買主は、必要とされる通知を行わなかったことについて合理的な理由を有する場合には、第五十条の規定に基づき代金を減額し、又は損害賠償(得るはずであった利益の喪失の賠償を除く。)の請求をすることができる。
第45条
(1)買主は、売主が契約又はこの条約に基づく義務を履行しない場合には、次のことを行うことができる。
(a)次条から第52条までに規定する権利を行使すること。
(b)第74条から第77条までの規定に従って損害賠償の請求をすること。
(2)買主は、損害賠償の請求をする権利を、その他の救済を求める権利の行使によって奪われない。
(3)買主が契約違反についての救済を求める場合には、裁判所又は仲裁廷は、売主に対して猶予期間を与えることができない。
【注】売主の契約違反に対する買主の保護として、代替品の提供・修補(46)、契約の解除(49)、代金減額(50条)、損害賠償がある。
第46条
(1)買主は、売主に対してその義務の履行を請求することができる。ただし、買主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。
(3)買主は、物品が契約に適合しない場合には、代替品の引渡しを請求することができる。ただし、その不適合が重大な契約違反となり、かつ、その請求を第39条に規定する通知の際に又はその後の合理的な期間内に行う場合に限る。
(3)買主は、物品が契約に適合しない場合には、すべての状況に照らして不合理であるときを除くほか、売主に対し、その不適合を修補によって追完することを請求することができる。その請求は、第39条に規定する通知の際に又はその後の合理的な期間内に行わなければならない。
第47条
(1)買主は、売主による義務の履行のために合理的な長さの付加期間を定めることができる。
(2)買主は、(1)の規定に基づいて定めた付加期間内に履行をしない旨の通知を売主から受けた場合を除くほか、当該付加期間内は、契約違反についてのいかなる救済も求めることができない。ただし、買主は、これにより、履行の遅滞について損害賠償の請求をする権利を奪われない。
第48条
(1)次条の規定が適用される場合を除くほか、売主は、引渡しの期日後も、不合理に遅滞せず、かつ、買主に対して不合理な不便又は買主の支出した費用につき自己から償還を受けることについての不安を生じさせない場合には、自己の費用負担によりいかなる義務の不履行も追完することができる。
ただし、買主は、この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。
(2)売主は、買主に対して履行を受け入れるか否かについて知らせることを要求した場合において、買主が合理的な期間内にその要求に応じないときは、当該要求において示した期間内に履行をすることができる。買主は、この期間中、売主による履行と両立しない救済を求めることができない。
(3) 一定の期間内に履行をする旨の売主の通知は、(2)に規定する買主の選択を知らせることの要求を含むものと推定する。
(4) (2)又は(3)に規定する売主の要求又は通知は、買主がそれらを受けない限り、その効力を生じない。
【注】履行に不備があっても、売主は修理や代替品の提供によって義務の不履行を追完することができる。
第49条
(1)買主は、次のいずれかの場合には、契約の解除の意思表示をすることができる。
(a)契約又はこの条約に基づく売主の義務の不履行が重大な契約違反となる場合
【注】ウィーン売買条約では「重大な契約違反 (Fundamental Breach)」がある場合に限って契約解除の意思表示をすることができるとし、当事者が一度は合意した契約をなるべく維持してゆこうとするスタンスを採っている。
(b)引渡しがない場合において、買主が第四十七条の規定に基づいて定めた付加期間内に売主が物品を引き渡さず、又は売主が当該付加期間内に引き渡さない旨の意思表示をしたとき。
【注】引渡しがない場合はまず催告し、それでも不履行な場合に契約解除できる。
(2)買主は、売主が物品を引き渡した場合には、次の期間内に契約の解除の意思表示をしない限り、このような意思表示(【注】契約解除の意思表示)をする権利を失う。
(a)引渡しの遅滞については、買主が引渡しが行われたことを知った時から合理的な期間内
(b)引渡しの遅滞を除く違反については、次の時から合理的な期間内
(i)買主が当該違反を知り、又は知るべきであった時
(ii)買主が第四十七条の規定に基づいて定めた付加期間を経過した時又は売主が当該付加期間内に義務を履行しない旨の意思表示をした時
(iii)売主が前条(2)の規定に基づいて示した期間を経過した時又は買主が履行を受け入れない旨の意思表示をした時
第50条
物品が契約に適合しない場合には、代金が既に支払われたか否かを問わず、買主は、現実に引き渡された物品が引渡時において有した価値が契約に適合する物品であったとしたならば当該引渡時において有したであろう価値に対して有する割合と同じ割合により、代金を減額することができる。ただし、売主が第三十七条若しくは第四十八条の規定に基づきその義務の不履行を追完した場合又は買主がこれらの規定に基づく売主による履行を受け入れることを拒絶した場合には、買主は、代金を減額することができない。
第51条
(1)売主が物品の一部のみを引き渡した場合又は引き渡した物品の一部のみが契約に適合する場合には、第46条から前条までの規定(【注】契約解除)は、引渡しのない部分又は適合しない部分について適用する。
(2)買主は、完全な引渡し又は契約に適合した引渡しが行われないことが重大な契約違反となる場合に限り、その契約の全部を解除する旨の意思表示をすることができる。
第52条
(1)売主が定められた期日前に物品を引き渡す場合には、買主は、引渡しを受領し、又はその受領を拒絶することができる。
(2)売主が契約に定める数量を超過する物品を引き渡す場合には、買主は、超過する部分の引渡しを受領し、又はその受領を拒絶することができる。
買主は、超過する部分の全部又は一部の引渡しを受領した場合には、その部分について契約価格に応じて代金を支払わなければならない。
第3章 買主の義務
第53条
買主は、契約及びこの条約に従い、物品の代金を支払い、及び物品の引渡しを受領しなければならない。
第一節 代金の支払
第54条
代金を支払う買主の義務には、支払を可能とするため、契約又は法令に従って必要とされる措置をとるとともに手続を遵守することを含む。
【注】L/C開設義務もこれに含まれると解されるが、L/C決済の場合、L/Cの開設期限を含め買主にL/C開設義務があることを契約書中に明記しておくことが望ましい。
第55条
契約が有効に締結されている場合において、当該契約が明示的又は黙示的に、代金を定めず、又は代金の決定方法について規定していないときは、当事者は、反対の意思を示さない限り、関係する取引分野において同様の状況の下で売却された同種の物品について、契約の締結時に一般的に請求されていた価格を黙示的に適用したものとする。
第56条
代金が物品の重量に基づいて定められる場合において、疑義があるときは、代金は、正味重量によって決定する。
第57条
(1)買主は、次の(a)又は(b)に規定する場所以外の特定の場所において代金を支払う義務を負わない場合には、次のいずれかの場所において売主に対して代金を支払わなければならない。
(a)売主の営業所
(b)物品又は書類の交付と引換えに代金を支払うべき場合には、当該交付が行われる場所
(2)売主は、契約の締結後に営業所を変更したことによって生じた支払に付随する費用の増加額を負担する。
第58条
(1)買主は、いずれか特定の期日に代金を支払う義務を負わない場合には、売主が契約及びこの条約に従い物品又はその処分を支配する書類を買主の処分にゆだねた時に代金を支払わなければならない。
売主は、その支払を物品又は書類の交付の条件とすることができる。
(2)売主は、契約が物品の運送を伴う場合には、代金の支払と引換えでなければ物品又はその処分を支配する書類を買主に交付しない旨の条件を付して、物品を発送することができる。
(3)買主は、物品を検査する機会を有する時まで代金を支払う義務を負わない。
ただし、当事者の合意した引渡し又は支払の手続が、買主がそのような機会を有することと両立しない場合(【注】CIF,CFR,FOB, FCA, CPT,CIPの時は買主に検査の機会は事実上ないが、支払いは先に行われる)は、この限りでない。
第59条
売主によるいかなる要求又はいかなる手続の遵守も要することなく、買主は、契約若しくはこの条約によって定められた期日又はこれらから決定することができる期日に代金を支払わなければならない。
【注】売主から支払いの請求がなくても、買主は期日に代金支払い義務がある。
第二節 引渡しの受領
第60条
引渡しを受領する買主の義務は、次のことから成る。
(a)売主による引渡しを可能とするために買主に合理的に期待することのできるすべての行為を行うこと。
【注】FOBなどの際の本船手配などがこれにあたる。
(b)物品を受け取ること。
第三節 買主による契約違反についての救済
第61条
(1)売主は、買主が契約又はこの条約に基づく義務を履行しない場合には、次のことを行うことができる。
(a)次条から第65条までに規定する権利を行使すること。
【注】代金を払う要求、引渡しを受ける要求、契約解除など
(b)第74条から第77条までの規定に従って損害賠償の請求をすること。
(2)売主は、損害賠償の請求をする権利を、その他の救済を求める権利の行使によって奪われない。
(3)売主が契約違反についての救済を求める場合には、裁判所又は仲裁廷は、買主に対して猶予期間を与えることができない。
第62条
売主は、買主に対して代金の支払、引渡しの受領その他の買主の義務の履行を請求することができる。
ただし、売主がその請求と両立しない救済を求めた場合は、この限りでない。
第63条
(1)売主は、買主による義務の履行のために合理的な長さの付加期間を定めることができる。
(2)売主は、(1)の規定に基づいて定めた付加期間内に履行をしない旨の通知を買主から受けた場合を除くほか、当該付加期間内は、契約違反についてのいかなる救済も求めることができない。ただし、売主は、これにより、履行の遅滞について損害賠償の請求をする権利を奪われない。
第64条
(1)売主は、次のいずれかの場合には、契約の解除の意思表示をすることができる。
(a)契約又はこの条約に基づく買主の義務の不履行が重大な契約違反となる場合
【注】「重大な契約違反」=第25条 当事者の一方が行った契約違反は、相手方がその契約に基づいて期待することができたものを実質的に奪うような不利益を当該相手方に生じさせる場合には、重大なものとする。→第63条 (1)売主は、買主による義務の履行のために合理的な長さの付加期間を定めることができる。→(2)売主は、(1)の規定に基づいて定めた付加期間内に履行をしない旨の通知を買主から受けた場合を除くほか、当該付加期間内は、契約違反についてのいかなる救済も求めることができない。
(b)売主が前条(1)の規定に基づいて定めた付加期間内に買主が代金の支払義務若しくは物品の引渡しの受領義務を履行しない場合又は買主が当該付加期間内にそれらの義務を履行しない旨の意思表示をした場合(は、契約の解除の意思表示をすることができる。)
【注】売買契約において、L/Cの開設期日を定め、それまでに開設されない場合は「買主の義務の不履行が重大な契約違反」となる旨定めておくのが無難。
(2)売主は、買主が代金を支払った場合には、次の時期に契約の解除の意思表示をしない限り、このような意思表示をする権利を失う。
(a)買主による履行の遅滞については、売主が履行のあったことを知る前
(b)履行の遅滞を除く買主による違反については、次の時から合理的な期間内
(i)売主が当該違反を知り、又は知るべきであった時
(ii)売主が前条(1)の規定に基づいて定めた付加期間を経過した時又は買主が当該付加期間内に義務を履行しない旨の意思表示をした時
第65条
(1)買主が契約に従い物品の形状、寸法その他の特徴を指定すべき場合において、合意した期日に又は売主から要求を受けた時から合理的な期間内に買主がその指定を行わないときは、売主は、自己が有する他の権利の行使を妨げられることなく、自己の知ることができた買主の必要に応じて、自らその指定を行うことができる。
(2)売主は、自ら(1)に規定する指定を行う場合には、買主に対してその詳細を知らせ、かつ、買主がそれと異なる指定を行うことができる合理的な期間を定めなければならない。
買主がその通信を受けた後、その定められた期間内に異なる指定を行わない場合には、売主の行った指定は、拘束力を有する。
第4章 危険の移転
第66条
買主は、危険が自己に移転した後に生じた物品の滅失又は損傷により、代金を支払う義務を免れない。
ただし、その滅失又は損傷が売主の作為又は不作為による場合は、この限りでない。
第67条
(1) 売買契約が物品の運送を伴う場合において、売主が特定の場所において物品を交付する義務を負わないときは、危険は、売買契約に従って買主に送付するために物品を最初の運送人に交付した時に買主に移転する。
売主が特定の場所において物品を運送人に交付する義務を負うときは、危険は、物品をその場所において運送人に交付する時まで買主に移転しない。
売主が物品の処分を支配する書類を保持することが認められている事実は、危険の移転に影響を及ぼさない。(2) (1)の規定にかかわらず、危険は、荷印、船積書類、買主に対する通知又は他の方法のいずれによるかを問わず、物品が契約上の物品として明確に特定される時まで買主に移転しない。
【注】ウィーン売買条約でも危険負担の移転について規定しており(第67条、第68条)、インコタームズよりも具体的、危険移転時期も若干の違い。売買契約にインコタームズを採用する旨の記載が無ければウィーン売買条約が適用されるので、たとえば ”All trade terms provided in the Contract shall be interpreted in accordance with the latest INCOTERMS of International Chamber of Commerce. と記述していれば、インコタームズが優先する。
第68条
運送中に売却された物品に関し、危険は、契約の締結時から買主に移転する。ただし、運送契約を証する書類を発行した運送人に対して物品が交付された時から買主が危険を引き受けることを状況が示している場合には、買主は、その時から危険を引き受ける。もっとも、売主が売買契約の締結時に、物品が滅失し、又は損傷していたことを知り、又は知っているべきであった場合において、そのことを買主に対して明らかにしなかったときは、その滅失又は損傷は、売主の負担とする。
第69条
(1) 前二条に規定する場合以外の場合には、危険は、買主が物品を受け取った時に、又は買主が期限までに物品を受け取らないときは、物品が買主の処分にゆだねられ、かつ、引渡しを受領しないことによって買主が契約違反を行った時から買主に移転する。
(2) もっとも、買主が売主の営業所以外の場所において物品を受け取る義務を負うときは、危険は、引渡しの期限が到来し、かつ、物品がその場所において買主の処分にゆだねられたことを買主が知った時に移転する。
(3) 契約が特定されていない物品に関するものである場合には、物品は、契約上の物品として明確に特定される時まで買主の処分にゆだねられていないものとする。
第70条
売主が重大な契約違反を行った場合には、前三条の規定は、買主が当該契約違反を理由として求めることができる救済を妨げるものではない。
第5章 売主及び買主の義務に共通する規定
第一節 履行期前の違反及び分割履行契約
第71条
(1)当事者の一方は、次のいずれかの理由によって相手方がその義務の実質的な部分を履行しないであろうという事情が契約の締結後に明らかになった場合には、自己の義務の履行を停止することができる。
(a)相手方の履行をする能力又は相手方の信用力の著しい不足(により相手方がその義務の実質的な部分を履行しないであろうという事情が契約の締結後に明らかになった場合には、自己の義務の履行を停止することができる。)
(b)契約の履行の準備又は契約の履行における相手方の行動(により相手方がその義務の実質的な部分を履行しないであろうという事情が契約の締結後に明らかになった場合には、自己の義務の履行を停止することができる。)
【注】「明らかになった」と主張するためには、客観的な証拠が必要。
(2)売主が(1)に規定する事情が明らかになる前に物品を既に発送している場合には、物品を取得する権限を与える書類を買主が有しているときであっても、売主は、買主への物品の交付を妨げることができる。この(2)の規定は、物品に関する売主と買主との間の権利についてのみ規定する。
(3)履行を停止した当事者は、物品の発送の前後を問わず、相手方に対して履行を停止した旨を直ちに通知しなければならず、また、相手方がその履行について適切な保証を提供した場合には、自己の履行を再開しなければならない。
第72条
(1)当事者の一方は、相手方が重大な契約違反を行うであろうことが契約の履行期日前に明白である場合には、契約の解除の意思表示をすることができる。
【注】相手方の契約違反が予想される場合、契約の履行期日前に解除することができる。
(2)時間が許す場合には、契約の解除の意思表示をする意図を有する当事者は、相手方がその履行について適切な保証を提供することを可能とするため、当該相手方に対して合理的な通知を行わなければならない。
(3)(2)の規定は、相手方がその義務を履行しない旨の意思表示をした場合には、適用しない。
第73条
(1)物品を複数回に分けて引き渡す契約において、いずれかの引渡部分についての当事者の一方による義務の不履行が当該引渡部分についての重大な契約違反となる場合には、相手方は、当該引渡部分について契約の解除の意思表示をすることができる。
(2)いずれかの引渡部分についての当事者の一方による義務の不履行が将来の引渡部分について重大な契約違反が生ずると判断する十分な根拠を相手方に与える場合には、当該相手方は、将来の引渡部分について契約の解除の意思表示をすることができる。ただし、この意思表示を合理的な期間内に行う場合に限る。
(3)いずれかの引渡部分について契約の解除の意思表示をする買主は、当該引渡部分が既に引き渡された部分又は将来の引渡部分と相互依存関係にあることにより、契約の締結時に当事者双方が想定していた目的のために既に引き渡された部分又は将来の引渡部分を使用することができなくなった場合には、それらの引渡部分についても同時に契約の解除の意思表示をすることができる。
第二節 損害賠償
第74条
当事者の一方による契約違反についての損害賠償の額は、当該契約違反により相手方が被った損失(得るはずであった利益の喪失を含む。)に等しい額とする。そのような損害賠償の額は、契約違反を行った当事者が契約の締結時に知り、又は知っているべきであった事実及び事情に照らし、当該当事者が契約違反から生じ得る結果として契約の締結時に予見し、又は予見すべきであった損失の額を超えることができない。
【注】輸出売買契約の中で、損害賠償の限度額について定めておくことが無難。
第75条
契約が解除された場合において、合理的な方法で、かつ、解除後の合理的な期間内に、買主が代替品を購入し、又は売主が物品を再売却したときは、損害賠償の請求をする当事者は、契約価格とこのような代替取引における価格との差額及び前条の規定に従って求めることができるその他の損害賠償を請求することができる。
第76条
(1)契約が解除され、かつ、物品に時価がある場合において、損害賠償の請求をする当事者が前条の規定に基づく購入又は再売却を行っていないときは、当該当事者は、契約に定める価格と解除時における時価との差額及び第七十四条の規定に従って求めることができるその他の損害賠償を請求することができる。ただし、当該当事者が物品を受け取った後に契約を解除した場合には、解除時における時価に代えて物品を受け取った時における時価を適用する。
(2)(1)の規定の適用上、時価は、物品の引渡しが行われるべきであった場所における実勢価格とし、又は当該場所に時価がない場合には、合理的な代替地となるような他の場所における価格に物品の運送費用の差額を適切に考慮に入れたものとする。
第77条
契約違反を援用する当事者は、当該契約違反から生ずる損失(得るはずであった利益の喪失を含む。)を軽減するため、状況に応じて合理的な措置をとらなければならない。当該当事者がそのような措置をとらなかった場合には、契約違反を行った当事者は、軽減されるべきであった損失額を損害賠償の額から減額することを請求することができる。
第三節 利息
第78条
当事者の一方が代金その他の金銭を期限を過ぎて支払わない場合には、相手方は、第74条の規定に従って求めることができる損害賠償の請求を妨げられることなく、その金銭の利息を請求することができる。
【注】遅延利息率については、輸出売買契約書であらかじめ定めておくことがのぞましい。
第四節 免責
第79条
(1)当事者は、自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと及び契約の締結時に当該障害を考慮することも、当該障害又はその結果を回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったことを証明する場合には、その不履行について責任を負わない。
【注】債務不履行について責任を負わない場合:
・自己の義務の不履行が自己の支配を超える障害によって生じたこと
・及び契約の締結時に当該障害を考慮することも、
・当該障害又はその結果を回避し、又は克服することも自己に合理的に期待することができなかったこと
を証明する場合
(2)当事者は、契約の全部又は一部を履行するために自己の使用した第三者(【注】下請け業者や運送人)による不履行により自己の不履行が生じた場合には、次の(a)及び(b)の要件が満たされるときに限り、責任を免れる。
(a)当該当事者が(1)の規定により責任を免れること。
(b)当該当事者の使用した第三者に(1)の規定を適用するとしたならば、当該第三者が責任を免れるであろうこと。
(3)この条に規定する免責は、(1)に規定する障害が存在する間、その効力を有する。
(4)履行をすることができない当事者は、相手方に対し、(1)に規定する障害及びそれが自己の履行をする能力に及ぼす影響について通知しなければならない。
当該当事者は、自己がその障害を知り、又は知るべきであった時から合理的な期間内に相手方がその通知を受けなかった場合には、それを受けなかったことによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(5)この条の規定は、当事者が損害賠償の請求をする権利以外のこの条約に基づく権利(【注】履行を要求する権利、代金減額請求権、契約解除件)を行使することを妨げない。
第80条
当事者の一方は、相手方の不履行が自己の作為又は不作為によって生じた限度において、相手方の不履行を援用することができない。
第五節 解除の効果
第81条
(1)当事者双方は、契約の解除により、損害を賠償する義務を除くほか、契約に基づく義務を免れる。
契約の解除は、紛争解決のための契約条項又は契約の解除の結果生ずる当事者の権利及び義務を規律する他の契約条項に影響を及ぼさない。【注】契約が解除されても、損害賠償義務は残る。
(2)契約の全部又は一部を履行した当事者は、相手方に対し、自己がその契約に従って供給し、又は支払ったものの返還を請求することができる。
当事者双方が返還する義務を負う場合には、当事者双方は、それらの返還を同時に行わなければならない。
第82条
(1)買主は、受け取った時と実質的に同じ状態で物品を返還することができない場合には、契約の解除の意思表示をする権利及び売主に代替品の引渡しを請求する権利を失う。
(2)(1)の規定は、次の場合には、適用しない。
(a)物品を返還することができないこと又は受け取った時と実質的に同じ状態で物品を返還することができないことが買主の作為又は不作為によるものでない場合
(b)物品の全部又は一部が第三十八条に規定する検査によって滅失し、又は劣化した場合
(c)買主が不適合を発見し、又は発見すべきであった時より前に物品の全部又は一部を通常の営業の過程において売却し、又は通常の使用の過程において消費し、若しくは改変した場合
第83条
前条の規定に従い契約の解除の意思表示をする権利又は売主に代替品の引渡しを請求する権利を失った買主であっても、契約又はこの条約に基づく他の救済を求める権利を保持する。
第84条
(1)(契約が解除された場合)売主は、代金を返還する義務を負う場合には、代金が支払われた日からの当該代金の利息も支払わなければならない。
(2)(契約が解除された場合)買主は、次の場合には、物品の全部又は一部から得たすべての利益を売主に対して返還しなければなら)ない。
(a)買主が物品の全部又は一部を返還しなければならない場合
(b)買主が物品の全部若しくは一部を返還することができない場合又は受け取った時と実質的に同じ状態で物品の全部若しくは一部を返還することができない場合において、契約の解除の意思表示をし、又は売主に代替品の引渡しを請求したとき。
第六節 物品の保存
第85条
買主が物品の引渡しの受領を遅滞した場合又は代金の支払と物品の引渡しとが同時に行われなければならず、かつ、買主がその代金を支払っていない場合において、売主がその物品を占有しているとき又は他の方法によりその処分を支配することができるときは、売主は、当該物品を保存するため、状況に応じて合理的な措置をとらなければならない。
売主は、自己の支出した合理的な費用について買主から償還を受けるまで、当該物品を保持することができる。
第86条
(1)買主は、物品を受け取った場合において、当該物品を拒絶するために契約又はこの条約に基づく権利を行使する意図を有するときは、当該物品を保存するため、状況に応じて合理的な措置をとらなければならない。
買主は、自己の支出した合理的な費用について売主から償還を受けるまで、当該物品を保持することができる。
(2)買主に対して送付された物品が仕向地で買主の処分にゆだねられた場合において、買主が当該物品を拒絶する権利を行使するときは、買主は、売主のために当該物品の占有を取得しなければならない。
ただし、代金を支払うことなく、かつ、不合理な不便又は不合理な費用を伴うことなしに占有を取得することができる場合に限る。この規定は、売主又は売主のために物品を管理する権限を有する者が仕向地に存在する場合には、適用しない。買主がこの(2)の規定に従い物品の占有を取得する場合には、買主の権利及び義務は、(1)の規定によって規律される。
第87条
物品を保存するための措置をとる義務を負う当事者は、相手方の費用負担により物品を第三者の倉庫に寄託することができる。ただし、それに関して生ずる費用が不合理でない場合に限る。
第88条
(1)第85条又は第86条の規定に従い物品を保存する義務を負う当事者は、物品の占有の取得若しくは取戻し又は代金若しくは保存のための費用の支払を相手方が不合理に遅滞する場合には、適切な方法により当該物品を売却することができる。ただし、相手方に対し、売却する意図について合理的な通知を行った場合に限る。
(2)物品が急速に劣化しやすい場合又はその保存に不合理な費用を伴う場合には、第85条又は第86条の規定に従い物品を保存する義務を負う当事者は、物品を売却するための合理的な措置をとらなければならない。当該当事者は、可能な限り、相手方に対し、売却する意図を通知しなければならない。
(3)物品を売却した当事者は、物品の保存及び売却に要した合理的な費用に等しい額を売却代金から控除して保持する権利を有する。当該当事者は、その残額を相手方に対して返還しなければならない。
第4部 最終規定
第89条
国際連合事務総長は、ここに、この条約の寄託者として指名される。
第90条
この条約は、既に発効し、又は今後発効する国際取極であって、この条約によって規律される事項に関する規定を含むものに優先しない。ただし、当事者双方が当該国際取極の締約国に営業所を有する場合に限る。
第91条
(1)この条約は、国際物品売買契約に関する国際連合会議の最終日に署名のために開放し、1981年9月30日まで、ニューヨークにある国際連合本部において、すべての国による署名のために開放しておく。
(2)この条約は、署名国によって批准され、受諾され、又は承認されなければならない。
(3)この条約は、署名のために開放した日から、署名国でないすべての国による加入のために開放しておく。
(4)批准書、受諾書、承認書及び加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第92条
(1) 締約国は、署名、批准、受諾、承認又は加入の時に、自国が第二部の規定に拘束されないこと又は第三部の規定に拘束されないことを宣言することができる。
(2)第二部又は第三部の規定に関しての規定に基づいて宣言を行った締約国は、当該宣言が適用される部によって規律される事項については、第一条に規定する締約国とみなされない。
第93条
(1) 締約国は、自国の憲法に従いこの条約が対象とする事項に関してそれぞれ異なる法制が適用される二以上の地域をその領域内に有する場合には、署名、批准、受諾、承認又は加入の時に、この条約を自国の領域内のすべての地域について適用するか又は一若しくは二以上の地域についてのみ適用するかを宣言することができるものとし、いつでも別の宣言を行うことにより、その宣言を修正することができる。
(2)(1)に規定する宣言は、寄託者に通報するものとし、この条約が適用される地域を明示する。
(3)この条約がこの条の規定に基づく宣言により締約国の一又は二以上の地域に適用されるが、そのすべての地域には及んでおらず、かつ、当事者の営業所が当該締約国に所在する場合には、当該営業所がこの条約の適用される地域に所在するときを除くほか、この条約の適用上、当該営業所は、締約国に所在しないものとみなす。
(4)締約国が(1)に規定する宣言を行わない場合には、この条約は、当該締約国のすべての地域について適用する。
第94条
(1)この条約が規律する事項に関して同一の又は密接に関連する法規を有する二以上の締約国は、売買契約の当事者双方がこれらの国に営業所を有する場合には、この条約を当該売買契約又はその成立について適用しないことをいつでも宣言することができる。その宣言は、共同で又は相互の一方的な宣言によって行うことができる。
(2)この条約が規律する事項に関して一又は二以上の非締約国と同一の又は密接に関連する法規を有する締約国は、売買契約の当事者双方がこれらの国に営業所を有する場合には、この条約を当該売買契約又はその成立について適用しないことをいつでも宣言することができる。
(3)(2)の規定に基づく宣言の対象である国がその後に締約国となった場合には、当該宣言は、この条約が当該締約国について効力を生じた日から、の規定に基づく宣言としての効力を有する。ただし、当該締約(1)国が当該宣言に加わり、又は相互の一方的な宣言を行った場合に限る。
第95条
いずれの国も、批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の時に、第一条の規定に拘束されないことを宣言することができる。
第96条
売買契約が書面によって締結され、又は証明されるべきことを自国の法令に定めている締約国は、売買契約、合意によるその変更若しくは終了又は申込み、承諾その他の意思表示を書面による方法以外の方法で行うことを認める第十一条、第二十九条又は第二部のいかなる規定も、当事者のいずれかが当該締約国に営業所を有する場合には第十二条の規定に従って適用しないことを、いつでも宣言することができる。
この宣言を行っているのは、アルゼンチン、アルメニア、チリ、パラグアイ、ロシア、ウクライナ、ベトナム。
第97条
(1)署名の時にこの条約に基づいて行われた宣言は、批准、受諾又は承認の時に確認されなければならない。
(2)宣言及びその確認は、書面によるものとし、正式に寄託者に通報する。
(3)宣言は、それを行った国について、この条約の効力発生と同時にその効力を生ずる。ただし、寄託者がこの条約の効力発生後に正式の通報を受領した宣言は、寄託者がそれを受領した日の後六箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
第94条の規定に基づく相互の一方的な宣言は、寄託者が最も遅い宣言を受領した日の後六箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
(4)この条約に基づく宣言を行った国は、寄託者にあてた書面による正式の通告により、当該宣言をいつでも撤回することができる。その撤回は、寄託者が当該通告を受領した日の後六箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
(5)第94条の規定に基づいて行われた宣言の撤回は、その撤回が効力を生ずる日から、同条の規定に基づいて行われた他の国による相互の宣言の効力を失わせる。
第98条
この条約において明示的に認められた留保を除くほか、いかなる留保も認められない。
第99条
(1)この条約は、(6)の規定に従うことを条件として、第十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書(第九十二条の規定に基づく宣言を伴うものを含む。)が寄託された日の後十二箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
(2)いずれかの国が、第十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の後に、この条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入する場合には、この条約(適用が排除される部を除く。)は、6条の規定に従うことを条件として、当該国の批准書、受諾書、承認書又は加入書が寄託された日の後十二箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に当該国について効力を生ずる。
(3)1964年7月1日にハーグで作成された国際物品売買契約の成立についての統一法に関する条約(1964年ハーグ成立条約)及び1964年7月1日にハーグで作成された国際物品売買についての統一法に関する条約(千九百六十四年ハーグ売買条約)のいずれか一方又は双方の締約国であって、この条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入するものは、その批准、受諾、承認又は加入の時に、オランダ政府に通告することにより、場合に応じて1964年ハーグ成立条約及び1964年ハーグ売買条約のいずれか一方又は双方を廃棄する。
(4)1964年ハーグ売買条約の締約国であって、この条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入し、及び第92条の規定に基づき第二部の規定に拘束されないことを宣言する、又は宣言したものは、その批准、受諾、承認又は加入の時に、オランダ政府に通告することにより、1964年ハーグ売買条約を廃棄する。
(5)1964年ハーグ成立条約の締約国であって、この条約を批准し、受諾し、承認し、又はこれに加入し、及び第92条の規定に基づき第三部の規定に拘束されないことを宣言する、又は宣言したものは、その批准、受諾、承認又は加入の時に、オランダ政府に通告することにより、1964年ハーグ成立条約を廃棄する。
(6)この条の規定の適用上、1964年ハーグ成立条約又は1964年ハーグ売買条約の締約国によるこの条約の批准、受諾、承認又はこれへの加入は、これらの二条約について当該締約国に求められる廃棄の通告が効力を生ずる時まで、その効力を生じない。
この条約の寄託者は、この点に関して必要な調整を確保するため、当該二条約の寄託者であるオランダ政府と協議する。
第100条
この条約は、第一条に規定する双方の締約国又は同条に規定する締約国についてこの条約の効力が生じた日以後に契約を締結するための申入れがなされた場合に限り、その契約の成立について適用する。
この条約は、第一条に規定する双方の締約国又は同条に規定する締約国についてこの条約の効力が生じた日以後に締結された契約についてのみ適用する。
第101条
締約国は、寄託者にあてた書面による正式の通告により、この条約又は第二部若しくは第三部のいずれかを廃棄することができる。廃棄は、寄託者がその通告を受領した後12箇月の期間が満了する日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。
当該通告において廃棄の効力発生につき一層長い期間が指定されている場合には、廃棄は、寄託者が当該通告を受領した後その一層長い期間が満了した時に効力を生ずる。
1984年4月11日にウィーンで、ひとしく正文であるアラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語により原本一通を作成した。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。