外航貨物海上保険:輸送中の事故による貨物の損害をカバー
現在、日本で使われている貨物海上保険証券のフォームには2種類ある。MARフォームが主流。
(1) MARフォーム(Marine Form)
(2) S.G.フォーム (ロイズS.G.フォーム)
インコタームズCIF, CIPでは売主が付保(インコタームズ2020では、CIPではICC(A), CIFではICC(C)))、それ以外の場合は買主が付保。
CIF, CIP契約の場合、通常、L/Cでは下記の様に記載される場合が多い。
FULL SET 2/2 OF INSURANCE POLICY FOR 110PCT CIP VALUE COVERING
INSTITUTE
CARGO CLAUSES (A) INCLUDING WAR CLAUSES AND STRIKE CLAUSES.
(1) MARフォーム
SGフォームが古く英語も判りにくいため、ICC Institute Cargo Clause 1982年でMARフォームが登場。
コンテナリゼーションの進展による国際複合輸送に対応。
最新版はICC2009年版改訂MARフォーム(新I.C.C.) で、我が国もMARフォームが主流に。MARはMarineのこと。
・L/C要求が Institute Cargo Clause(A) → Policy が All Risk はディスクレ
・L/C要求がAll Risk → Policy が ICC(A) L/C 条件充足(ISBP186条)
海上危険に対応する約款 (Insstitute Cargo Clauses) として3種類あり、必要に応じて選択する。
このうちICC(A)はすべての危険を包括的にカバーするもので、航空輸送バージョンとして ICC(AIR) がある。(荷卸し後30日)
協会危険約款 Institute Cargo Clauses : 海上危険 (マリンリスク)
・海賊行為はマリンリスク
Warehouse to Warehouse (荷卸し完了から60日) | ICC(A) | ICC(B) | ICC(C) |
全損 | 〇 | 〇 | 〇 |
火災・爆発 | 〇 | 〇 | 〇 |
座礁・沈没 | 〇 | 〇 | 〇 |
陸上輸送用具の転覆、脱線 | 〇 | 〇 | 〇 |
船舶その他輸送用具の水以外の他物との衝突、接触 | 〇 | 〇 | 〇 |
地震、噴火、落雷 | 〇 | 〇 | X |
共同海損 |
〇 |
〇 | 〇 |
波さらい (Washing Overboard) | ○ | ○ | X |
海水、湖水、河川の船舶、コンテナへの浸水 | 〇 | 〇 | X |
積込み、荷おろし中の貨物の落下による梱包1個ごとの全損 | ○ | ○ | X |
汗ぬれ(もともと貨物が含んでいる水分、結露)、蒸れ (Sweat and Heating) |
〇 | X(要特約) | X |
擦損、かぎ損(Hook Damage) | 〇 | X(要特約) | X |
虫食い、ねずみ食い (vermin、pests) | 〇 | X(要特約) | X |
盗難·抜荷(Theft and Pilferage) |
〇 |
X(要特約) | X(要特約) |
不着(Non Delivery) | 〇 | X(要特約) | X |
破損、曲がり、へこみ (Breakage, Bending, Denting) | 〇 | X(要特約) | X(要特約) |
漏出(Leakage)、不足 | 〇 | X(要特約) | X(要特約) |
汚染(Contamination)、混合 | 〇 | X(要特約) | X(要特約) |
雨淡水濡れ損 (RFWD:Rain Fresh Water Damage) |
○ | X(要特約) | X |
さび、酸化(Rust and Oxidization) |
○ | X(要特約) | X |
腐敗(Decay) | ○ | X(要特約) | X |
通常の漏損・減少、自然の消耗 | X | X | X |
被保険者の故意の違法行為 | X | X | X |
梱包の不完全、不適切 | X | X | X |
保険の目的物の固有の欠陥、性質 | X | X | X |
遅延 | X | X | X |
船会社の倒産 | X | X | X |
核兵器の使用 | X | X | X |
船舶不堪航、コンテナ不適合 | X | X | X |
向いている貨物 |
機械、 一般貨物 |
穀物など のバラ荷 |
鉄鉱石、 鉄くず 石炭、原木など |
戦争危険 Institute War Clauses |
特約 (船積から荷卸しまでの海上区間) 荷卸し無くても到着後15日で保険期間終了 |
||
ストライキ危険 Institute Strikes Clauses (SRCC) ・テロ行為はこの特約でカバー |
特約 (Warehouse to Warehouse) |
免責
被保険者の故意による違法行為、梱包不十分・不適切、貨物固有の性質・欠陥、通常の濡損、重量・容積の通常の減少、運送遅延による保管料の増加、船主等の支払い不能、原子力危険、生物化学兵器危険
などは海上保険の対象外
(2) S.G.フォーム (ロイズS.G.フォーム)
1963年版ICC約款
S.G.フォームには代表的な3つの保険条件があり、必要に応じて選択する。
①FPA [分損不担保] Free from Particular Average
・全損→カバーされる。
・SSBC(沈没、座礁、大火災、衝突)による全損→カバーされる。
・分損(単独海損)はカバーされない。 the Underwriters are to pay... totally lost
・特定分損:SSBC(沈没Sink、座礁Strand、大火災Burning、衝突Collision)による分損→カバーされる。
・共同海損による損害 →カバーされる。
・積込、積替、荷卸中の貨物落下による梱包一個ごとの全損→カバーされる。
・避難港での荷卸の際に生じた損害→カバーされる。
・救助料、損害防止費用、特別費用→カバーされる。
! 海水濡れ(潮濡れ)による分損はFPAではカバーされない。
! 雨ぬれはカバーされない。
↓
FPAでは、海上輸送の中心的な事故である潮濡れ(Sea Water Damage)のリスクがない原油、石炭、鉄鉱石、木材、大理石といった鉱業品、バラ積建材の場合を中心に利用。
*盗難、不着、破曲損、雨淡水濡れ、汚れ、その他:特約で付保。
②WA(With Particular Average 分損担保(単独海損担保))
WA[分損担保] With(Particular)Average
WA条件でカバーされる損害:FPA条件+海水濡れ(潮濡れ)による分損をカバー
"any loss of or damage to the interest insured which may reasonably be attributed to fire, explosion, collision or contact of the vessel with any external substance (ice included)" →潮濡れリスクをカバー。バルク積み小麦や大豆などの農産品を中心に利用。
*保険条件を単にWAとして契約すると、保険証券本文に書いてある免責歩合条項(メモランダム条項)が適用されて「フランチャイズ方式」が適用される。(海難によるものか、貨物の性質によるものか、保険価格の3% 5%などの判断が困難なため)→そこで、通常は証券上にWA(I.O.P : Irrespective of Percentage)と表示してメモランダム条項を適用しないようにする。
! 雨ぬれはカバーされない。
*盗難、不着、破曲損、雨淡水濡れ、汚れ、その他:特約で付保。
③ALL RISKS(全危険担保)免責歩合なく、損害全額てん補。
・共同海損による損害
・全損:SSBC(沈没、座礁、大火災、衝突)やPerils of the seas(沈没、衝突、座礁などの他、低気圧などによる暴風雨、高波など)による全損。
・SSBC(沈没、座礁、大火災、衝突)による分損。
・積込、積替、荷卸中の貨物墜落による梱包一個ごとの全損。
(*以上の段階では潮濡れによる分損はまだカバーされていない)
・担保危険による上記以外の分損→ここで、その実質的な内容である潮濡れリスクがカバーされる。
・避難港での荷卸の際に生じた損害
・救助料、損害防止費用、特別費用
・盗難、不着、破曲損、雨淡水濡れ、汚れ、その他もカバーされる。
・保険証券の本文約款では被保険者の故意(不法行為)、 戦争、ストライキ、暴動は担保されている。それを後に追加されたイタリック約款で免責にしてある。→さらに特約として、Institute War Clausesにより戦争危険, Institute Strikes Riots and Civil Commotions Clause (SRCC) にてストライキ危険を追加担保する。
! 原子力危険、放射能汚染による損害などはカバーされない。
(20160307)