安全保障貿易管理

安全保障貿易管理の枠組み:ココムからワッセナーアレンジメントへ

 

軍事転用、安全保障といえば、以前は「ココム」であった。ココムは冷戦時代に、共産圏諸国に対する戦略物資統制を目的に設けられた国際協約やその管理体制のこと。冷戦構造崩壊によりココムは解消されたが、一方で新たな脅威となってきたテロ等の地域的な紛争に対応する必要が出てきた。

 

そこで、地域の安定を損なう恐れのある武器や武器に転用できる汎用品・技術の過度の移転と蓄積の防止という新たな国際社会の課題に対応するために、1995年12 月の国際会議で新たな体制が成立した。国際会議で新たな枠組みが決められた場合、その開催地に名前を採ることがよくあるが、本件もオランダ・ワッセナー市 にちなみ「ワッセナー・アレンジメント(WA)」と呼ばれることとなった。

 

WA以外にも、各種の条約や、国際会議による取り決め(レジーム)がなされている。

下記の表は、輸出貿易別表第1の各項と国際的な取り決めとの対応を示す。

 輸出令別表第1(外為令別表)

対象物

条約

国際輸出管理

レジーム

国内法の対応

 

 

核兵器関連

 ・核不拡散条約

(Nuclear Non-Proliferation Treaty NPT ) (1970)

 ・原子力供給国会合(NSG)

→1974年のインド核実験が契機

・非核三原則

・核兵器関連=原子力供給国会合(NSG)輸出令別表第1(外為令別表)の2の項

 

3の2   

 

化学兵器

生物兵器

・化学兵器禁止条約

(The Chemical Weapons ConventionCWC ) (1997)

 ・生物兵器禁止条約(The Biological Weapons ConventionBWC ) (1975)

 

 ・オーストラリア・グループ(AG)(1985)

生物・化学兵器の開発などに転用される可能性の高い汎用品、栓用品を規制

1984年のイラク化学兵器使用が契機

・化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律

・細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約等の実施に関する法律

・オーストラリア・グループ(AG)

輸出令別表第1(外為令別表)

3の項、3の2の項

 

 

ミサイル関連

 

 ・ミサイル関連機材・技術輸出規制

(MTCR) (1987,1992)

・「外国為替及び外国貿易法」、「輸出貿易管理令別表第1(外為令別表)の4の項」

 5~15

 ・通常兵器

・汎用品(いわゆるデュアルユース品

 

・ワッセナー・アレンジメント(WA)(1996)

 

 

・「外国為替及び外国貿易法」、「輸出貿易管理令 輸出令別表第1(外為令別表)の5~15の項」、「外国為替令」などの関連法令を整備し、ワッセナー・アレンジメントの規制対象となる汎用品・技術の輸出に際しては、厳格な輸出管理を実施。
15の項はWASensitive Listに対応。

① 日本、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、韓国は全ての国際的な輸出管理のレジームに参加。

② ロシアはワッセナーアレンジメントの設立メンバーとして参加している。

③ インド、パキスタンは4つの国際輸出管理のレジームに参加していない。

④ 中国はNSG以外のレジームには参加していない。

⑤ トルコ、ウクライナ、ブルガリアは、4つの国際輸出管理レジームに参加しているが、大量破壊兵器キャッチオールを実施していないので輸出令別表3(グループA国)に指定されていない。

ワッセナーアレンジメント

https://www.wassenaar.org/

TABLE OF CONTENTS

LIST OF DUAL-USE GOODS AND TECHNOLOGIES

- General Technology, General Software and General "Information Security" Notes 3

 

(メモ:Basic List の9カテゴリーと外為法-輸出貿易管理令での対応)

- Category 1 Special Materials and Related Equipment (5の項:先端材料)

- Category 2 Materials Processing (6の項:材料格好)

- Category 3 Electronics (7の項:エレクトロニクス)

- Category 4 Computers (8の項:コンピューター)

- Category 5 - Part 1 Telecommunications. (9の項:通信関連)

- Category 5 - Part 2 "Information Security" (9の項:暗号関連)

- Category 6 Sensors and "Lasers"  (10の項:センター、レーザー)

- Category 7 Navigation and Avionics (11の項:航法関連)

- Category 8 Marine (12の項:海洋関連)

- Category 9 Aerospace and Propulsion (13の項:推進装置)

 

- Sensitive List (貨物:告示貨物、技術:提出書類通達別表2-付表1)

- Very Sensitive List (15の項: 機微品目)

- MUNITIONS LIST (22項目にわたる軍需品 (1の項に該当するものを除く)  14の項。)

 

今日ではWAを含め、通常兵器や大量破壊兵器等に関する4つの国際的な輸出管理のためのレジーム(枠組み)がある。これらに基づく輸出管理は、「特定国への禁輸」ではなく、「不拡散型輸出管理」を目的としている。

 

我が国では、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)をベースとし、貨物の輸出については「輸出貿易管理令」(輸出令)で、役務(技術)については「外国為替令」(外為令)で規制品目を定め、その具体的なスペックを省令や通達などで規定している。

貨物関連:我が国の安全保障貿易管理の一丁目一番地は外為法48条第1項である。

 

外為法 

48条(輸出の許可等)

① 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令(輸出貿易管理令) で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、

政令(輸出貿易管理令) で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。 

「外為法」が「輸出貿易管理令」に詳細を委ね、その「輸出貿易管理令」の実施について更に細かいことを、「輸出貿易管理規則」「運用通達」で定めている。 

外為法48条第1項の規定を受け、そこでいうところの「政令」である輸出貿易管理令では、輸出の許可を要する地域を別表1で定めている。別表1では、原則として世界全域が輸出許可の対象地域とされ、そこから例外を設ける形で輸出許可が不要な国や輸出許可が不要なケースを定めるという建付けになっている。

 

 

輸出貿易管理令

 第1条(輸出の許可) 

外為法第48第一項に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。

② 法第48条第一項の規定による許可を受けようとする者は、経済産業省令で定める手続(輸出貿易管理規則) に従い、当該許可の申請をしなければならない。

第5条 (税関の確認等)

税関は、経済産業大臣の指示に従い、貨物を輸出しようとする者が法第48条第一項の規定による許可若しくは第二条第一項の 規定による承認を受けていること又は当該許可若しくは承認を受けることを要しないことを確認しなければならない。

  

第8条(許可及び承認の有効期間)

法第48条第一項の規定による許可及び第二条第一項の規定による承認の有効期間は、その許可又は承認をした日から六月とする。