みなし輸出管理の強化
外為法25条項後段は「居住者は、日本内外を問わず、非居住者に特定技術を提供する取引を行うには、経済産業大臣の役務取引許可を受けなければならない。」と規定している。
ここで「居住者」の意味については、財務省の通達「外国為替法令の解釈及び運用について」(解釈運用通達)において定められている。解釈運用通達では、入国後6ケ月経過または国内の事務所に勤務する外国人は居住者として扱われ、「みなし輸出管理」の対象からは除外される。
しかし、これでは、外国の影響下にある居住者から機微技術が流出する余地があり、現行規定ではこれへの管理が十分でないとされていた。
そこで、居住者へのリスト規制技術の提供であっても、当該居住者が、非居住者へ技術情報を提供する取引と事実業同一と考えられるほどに当該非居住者から強い影響をうけている状態に該当する場合には、「みなし輸出」管理の対象であることが明確化された。具体的には「役務通達」の一部を改正し、2022年5月1日から適用されることとなった。
役務通達では、法令にでてくる各種用語の意味について説明しているが、「役務通達 1(3) 用語の解釈」において「取引」の説明が大きく追加された。
すなわち、
・取引とは、有償無償にかかわらず、取引当事者双方の合意に基づくものをいい、提供することを目的とする取引とは、特定国において又は特定国の非居住者に対して技術を提供することを内容とする取引をいう。ここまでは、従来と同じだが、「当該居住者が、非居住者へ技術情報を提供する取引と事実業同一と考えられるほどに当該非居住者から強い影響をうけている状態」を新設し、3つのパターンに分けて「特定類型」とし、下記の文章が「取引」の解釈として追加された。
・次の①から③までに掲げる者(自然人である居住者に限る。以下「特定類型」という。)に対して技術を提供する取引は、特定国の非居住者に対して技術を提供することを内容とする取引とする。
つまり、特定類型にあたる者は非居住者から強い影響をうけている状態であるとして、その者に特定技術を提供することは、非居住者への提供として扱い、経済産業大臣の役務取引許可を必要とした。
役務通達 1(3) 用語の解釈
外為令別表、輸出貿易管理令別表第1及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令(貨物等省令)、貿易外省令及びこの通達における用語の解釈は、別紙1及び別紙1-2に掲げるもののほか、次のとおりとする。
(中略)
サ (メモ:2022年5月より)取引とは、有償無償にかかわらず、取引当事者双方の合意に基づくものをいい、提供することを目的とする取引とは、特定国において又は特定国の非居住者に対して技術を提供することを内容とする取引をいう。
なお、次の①から③までに掲げる者(自然人である居住者に限る。以下「特定類型」という。)に対して技術を提供する取引(以下「特定取引」という。)は、特定国の非居住者に対して技術を提供することを内容とする取引とする。(メモ:非居住者への提供として扱うこととする。) また、取引の相手方が特定類型に該当するか否かの確認については、別紙1-3にガイドラインを示す。
① 外国法令に基づいて設立された法人その他の団体(外国法人等)又は外国の政府、外国の政府機関、外国の地方公共団体、外国の中央銀行若しくは外国の政党その他の政治団体(外国政府等)との間で雇用契約、委任契約、請負契約その他の契約を締結しており、当該契約に基づき当該外国法人等若しくは当該外国政府等の指揮命令に服する又は当該外国法人等若しくは当該外国政府等に対して善管注意義務を負う者(次に掲げる場合を除く。)
(イ)(メモ:除外規定) 当該者が本邦法人との間で雇用契約、委任契約、請負契約その他の契約を締結しており、当該契約に基づき当該本邦法人の指揮命令に服する又は当該本邦法人に対して善管注意義務を負う場合において、当該本邦法人又は当該者が、当該外国法人等又は当該外国政府等との間で、当該本邦法人による当該者に対する指揮命令又は当該本邦法人に対して当該者が負う善管注意義務が、当該外国法人等若しくは当該外国政府等による当該者に対する指揮命令又は当該外国法人等若しくは当該外国政府等に対して当該者が負う善管注意義務よりも優先すると合意している場合
(ロ) (メモ:除外規定) 当該者が本邦法人との間で雇用契約、委任契約、請負契約その他の契約を締結しており、当該契約に基づき当該本邦法人の指揮命令に服する又は当該本邦法人に対して善管注意義務を負う場合において、グループ外国法人等(当該本邦法人の議決権の50%以上を直接若しくは間接に保有する外国法人等又は当該本邦法人により議決権の50%以上を直接若しくは間接に保有される外国法人等をいう。以下同じ。)との間で雇用契約、委任契約、請負契約その他の契約を締結しており、当該契約に基づき当該グループ外国法人等の指揮命令に服する又は当該グループ外国法人等に対して善管注意義務を負う場合
② 外国政府等から多額の金銭その他の重大な利益(金銭換算する場合に当該者の年間所得のうち25%以上を占める金銭その他の利益をいう。)を得ている者又は得ることを約している者
③ 本邦における行動に関し外国政府等の指示又は依頼を受ける者
シ 特定国の非居住者とは、外為法の規定及び外国為替法令の解釈及び運用について(昭和55年蔵国第4672号)に規定する基準に基づく自然人又は法人であって、特定国に属する(居所若しくは住所又は主たる事務所の所在を判断の基準とする)者をいう。
ス 取引の相手方が技術情報を受領する場所が特定国であるとは、当該取引における契約上の履行地が特定国であることをいう(特段の定めがなければ取引の相手方の居所、住所又は主たる事務所の所在地が契約上の履行地であると考えられる。)。
セ 許可を受けた外為法第25条第1項の取引により技術の提供を受けた取引の相手方とは、契約の相手方(当該取引が特定取引に該当する場合は、特定類型に該当する居住者を含む。)のほか、当該取引において明らかとなっている限度において当該技術を利用する者を含む。
タ 提供とは、他者が利用できる状態に置くことをいう。なお、いわゆるクラウドコンピューティングサービスの解釈については、別紙1-2のとおりとする。
役務通達 別紙1-3
特定類型の該当性の判断に係るガイドライン
特定類型の該当性を判断するためのガイドラインを次のとおり提示する。本ガイ ドラインに従った確認をすれば、取引の相手方となる居住者(自然人に限る。別紙 1-3、別紙1-4及び別紙3において同じ。)に対して技術を提供するにあたり、 当該居住者が特定類型に該当するか否かにつき、通常果たすべき注意義務を果たし ているものと解される。
1 特定類型①又は②の該当性確認
(1) 当該居住者が提供者の指揮命令下にない場合
ア 役務取引を実施するまでの間に商慣習上当該役務取引を行う上で通常取得 することとなる契約書等の書面(契約書等)において記載された情報から特定類型①又は②に該当することが明らかである場合にお いて、漫然と当該居住者に対して技術の提供を行う場合は、通常果たすべき 注意義務を履行していないことと解される。 なお、役務取引を実施するまでの間に契約書等において記載された情報か ら特定類型①又は②に該当することが明らかでない場合は、追加で確認を行 うことは求められない。
イ 特定類型①又は②に該当する可能性があると経済産業省から連絡を受けた 場合において、漫然と当該居住者に対して技術の提供を行う場合は、通常果 たすべき注意義務を履行していないことと解される。
(2) 当該居住者が提供者の指揮命令下にある場合
ア 当該居住者が指揮命令に服した時点において、特定類型①又は②に該当す るか否かを当該居住者の自己申告(別紙1-4参照)によって確認した上で、 指揮命令に服する期間中において、新たに特定類型①又は②に該当すること となった場合に、報告することを求めている場合は、通常果たすべき注意義 務を履行しているものと解される。また、当該居住者が令和4年5月1日時 点で既に指揮命令下にある場合であって、指揮命令に服する期間中において、 新たに特定類型①又は②に該当することとなった場合に報告することを求め ている場合は、通常果たすべき注意義務を履行しているものと解される。 なお、就業規則等の内部規則において、副業行為を含む利益相反行為が禁 止又は申告制になっている場合は、指揮命令に服する期間中において、新た に特定類型①又は②に該当することとなった場合に、報告することを求めて いることと解される。
イ 特定類型①又は②に該当する可能性があると経済産業省から連絡を受けた 場合において、漫然と当該居住者に対して技術の提供を行う場合は、通常果 たすべき注意義務を履行していないことと解される。
2 特定類型③の該当性確認
(1) 当該居住者が提供者の指揮命令下にない場合及び指揮命令下にある場合
ア 役務取引を実施するまでの間に契約書等において記載された情報から特定 類型③に該当することが明らかである場合において、漫然と当該居住者に対して技術の提供を行う場合に限定して、通常果たすべき注意義務を履行して いないことと解される。 なお、役務取引を実施するまでの間に契約書等において記載された情報か ら特定類型③に該当することが明らかでない場合は、追加で確認を行うこと は求められない。
イ 特定類型③に該当する可能性があると経済産業省から連絡を受けた場合にお いて、漫然と当該居住者に対して技術の提供を行う場合は、通常果たすべき注意義務を履行していないことと解される。