リスト規制

外為法48条1項は、

「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令(輸出貿易管理令)で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令(輸出貿易管理令)で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」 としている。

 

外為法では "特定の地域向け" としているが、実質的には世界のどの国向けでも規制対象となっている。また、”特定の種類の貨物" としているが、「リスト規制」と「キャッチオール規制」という2段構えでほとんど全ての輸出品目に規制の網が掛かっており、例外的に輸出を認めるという構成になっている。(外為法第1条では「必要最小限の管理又は調整」と言っているが...)

ここでは便宜上、貨物の輸出を中心に説明する。 

 

貨物が「リスト規制」に該当するか

 

兵器そのもの、兵器もしくはその一部として使われそうな高性能汎用品、兵器開発に利用しうる高性能汎用品などが輸出令別表第1に15項目リストアップされている(リスト規制品目)。輸出規制の対象となる地域は全地域。

 

細かい分類は「輸出貿易管理令」に、詳細なスペックは「貨物等省令」に委ねられている。

 

輸出しようとする貨物、 提供しようとする技術 (プログラム含む)が リスト規制貨物等に該当するか否かを判定することを「該否判定」という。

リスト規制貨物等に該当するものについて、経済産業大臣の許可が必要となる。

出典 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/anpo_level1.pdf

 

該否判定

  

外為法 48条→輸出貿易管理令 別表第一 貨物等省令

                                                   

            運用通達 輸出令別表第1中解釈を要する語 

輸出貿易管理令

第1条 (輸出の許可)

外為法第48条第1項に規定する、政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第1中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。

2 法第48条第1項の規定による許可を受けようとする者は、経済産業省令(輸出貿易管理規則)で定める手続に従い、当該許可の申請をしなければならない。 

特定の地域とは、輸出貿易管理令別表第1の中で「全地域」、すなわち、日本以外の外国すべて、どの国向けの輸出であろうと、経済産業大臣の許可が必要とされている。

特定の種類の貨物とは、輸出貿易管理令別表第1にリストアップされた貨物であり、規制のスペックに該当する貨物は、どの国向けの輸出であろうと(例え同盟国の米国向けであっても)、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。

 

したがって、自社が製造している、あるいは他社から仕入れて輸出する機器や製品などが、リスト規制の対象になるかを確認する必要がある。

別表第1:

・1の項~15の項  全地域

   1の項:武器そのもの

   2の項~15の項:「次に掲げる貨物であつて、経済産業省令(貨物等省令)で定め

             る仕様のもの」

・16の項  別表第三に掲げる地域(=グループA) を除く全地域

輸出貿易管理令別表第一の、1の項の貨物(武器):

武器に該当する貨物はどの国向けの輸出であろうと(例え同盟国の米国向けであっても)、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。(「地域」の欄が「全地域」となっている。)

ただし、外為令別表第1(武器)については、対応する貨物等省令はなく、スペックは定められていない。

 

「武器」とは、輸出貿易管理令別表第1の1の項に掲げるもののうち、軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるものをいう(防衛装備移転三原則)。

 

 

武器に当たるか否かは、当該貨物の形状、属性等から客観的に武器専用品と判断できるものとし、いわゆる汎用品は、防衛装備移転三原則における「防衛装備」には該当しないものとしている。

 

通常の企業活動では「武器」そのものを輸出することはまずない。

「武器」の開発や製造に使われる可能性がかなり高いスペックのものを、輸出貿易管理令別表第1の1の項~15の項で規制する、という建付けになっている。

 

 

武器は「大量破壊兵器」と「通常兵器」に分類される。

「大量破壊兵器」はさらに、核兵器(A)、生物兵器(B)、化学兵器(C)、それらの運搬手段であるミサイル(M)に分類される。これらを総称してWMD (Weapons of Mass Destruction)ともいう。

 

別表第一の 2の項~15の項の貨物:

規制対象となる貨物の概要がリストアップされており、そのスペックは「経済産業省令」(ここでは「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」(貨物等省令)) に振られている。

 

2の項~15の項についての貨物等省令のスペックに該当する貨物 は、1の項の武器と同様、どの国向けの輸出であろうと(例え同盟国の米国向けであっても)、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。(「地域」の欄が「全地域」となっている。)

外為令別表第1(武器)については、対応する貨物等省令はなくスペックは定められていないが、2の項~15の項については貨物等省令にスペックが詳述されている。 

 

例として、貨物等省令の、6の項「材料加工」に該当する部分の一部を見てみる。

輸出貿易管理令別表第1の6の項に係る記述は下記通り。

(一) 軸受又はその部分品 (四の項の中段に掲げるものを除く。)とあるのは、四の項でも軸受をリストアップしており、四の項(五の二)に「(五)2に掲げる貨物に使用することができる軸受」とある。従い、四の項(五の二)についての該否判定を先に行い、それに該当するのであれば六の項(一)としての該否判定は不要。

四の項(五の二)に非該当であれば六の項(一)としての該否判定を行うことになる。

詳細なスペックは輸出貿易管理令別表第1には書かれておらず、経済産業省令(ここでは貨物等省令(輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令))で定められている。

 

そのスペックに該当する貨物はどの国向けの輸出であろうと(例え同盟国の米国向けであっても)、経済産業大臣の輸出許可が必要となる。

 

別表第一では特に「何が規制されるのか」に注意する。

貨物本体のみならず、項目によっては「部分品」や「付属品」も規制される場合がある。

また、たとえば炭素繊維が遠心分離機の材料、ミサイル材料、通常兵器の材料として規制2 項 17 、 4 項 15 、 5 項 18 、 13 項 3 など)されるなど、同じモノが、複数の項目 によって規制される場合がある

貨物等省令

第五条 輸出令別表第一の六の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。

一 軸受又はその部分品であって、次のいずれかに該当するもの

イ 玉軸受又はころ軸受(円すいころ軸受を除く。)であって、内輪、外輪及び転動体の全てがモネル製又はベリリウム製のもののうち、日本産業規格B一五一四―一号で定める精度の等級が二級又は四級以上のもの

ロ 削除

ハ 能動型の磁気軸受システムであって、次のいずれかに該当するもの又はそのために特に設計した部分品

(一) 磁束密度が二テスラ以上で、かつ、降伏点が四一四メガパスカルを超える材料からなるもの

(二) 全電磁式で、かつ、三次元ホモポーラバイアス励磁方式のアクチュエータを用いるもの

(三) 温度が一七七度以上で用いることができる位置検出器を有するもの

二 工作機械(金属、セラミック又は複合材料を加工することができるものに限る。)であって、電子制御装置を取り付けることができるもののうち、次のイからホまでのいずれかに該当するもの(ヘに該当するもの及び光学仕上げ工作機械を除く。)

イ 旋削をすることができる工作機械であって、輪郭制御をすることができる軸数が二以上のもののうち、次のいずれかに該当するもの((三)に該当するものを除く。)

(一) 移動量が一メートル未満の直線軸のうち、いずれか一軸以上の一方向位置決めの繰返し性が0.0009㎜以下のもの

(二) 移動量が一メートル以上の直線軸のうち、いずれか一軸以上の一方向位置決めの繰返し性が0.0011㎜以下のもの

(三) 棒材作業用の旋盤のうち、スピンドル貫通穴から材料を差し込み加工するものであって、次の1及び2に該当するもの

1 加工できる材料の最大直径が四二ミリメートル以下のもの

2 チャックを取り付けることができないもの

(以下略)

貨物等省令の、どの項目に自社製品が該当するのかの確認方法

 

(1) 経産省のサイト  https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html

から、貨物・技術の合体マトリックス表をダウンロードする。

① マトリックス表で自社商品関連の単語を用語検索する。このマトリックス表はExcelなので、文字列検索ができる。輸出しようとしている自社製品が、マトリックス表のどこに規定されているかを文字列検索する。

② ただし、GPSやドローンなど一般的に使われている名称が、マトリックス表では使われていない場合もある。こういう時は検索でヒットしないので、「読替が必要な用語(例)」 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/shyourei-matrix/kensaku-yougo.xlsx で検索ワードを工夫する。

・参考 https://www.youtube.com/watch?v=sifBI6RHQ_c

③ 検索でヒットした輸出貿易管理令の関連項番を、一つ一つ確認する。確認の際、CISTECで販売している「項目別対比表」をスペックのチェックシートとして使うと判定がスムーズに行える。

 

   <または>

 

(2) ① まず、輸出しようとする自社製品のHSコードを先に確定する。

   https://tsukanshi.com/hscode/

  ② 関税協会のweb輸出統計品目表に、そのHSコードを入れてみる。

    https://www.kanzei.or.jp/statistical/expstatis/top/index/j →備考欄に、輸出貿易管理令

         の関係ありそうな項番が表示される。

      ③ 備考欄に表示された輸出貿易管理令の関連項番を、上記のマトリックス表で一つ一つ確認す

         る。確認の際、CISTECで販売している「項目別対比表」をスペックのチェックシートとして

   使うと判定がスムーズに行える。

 

   <または>

 

(3) CISTECの該否判支援定サービスを利用する。(有料)

    https://www.cistec.or.jp/service/gaihishien/index.html 

 

該否判定においてはさらに「運用通達」に示されている 「輸出令別表第1中解釈を要する語」も参照する必要がある。

「輸出令別表第1中解釈を要する語」は運用通達本文には記載されておらず、経済産業省安全保障貿易管理のホームページ上の「貨物のマトリクス表」http://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html )のセル内に書かれている。

該否判定の「成果物」としての文書

・「該否判定書」としてオフィシャルに定められた書式はない。

経済産業省のサイトからダウンロードできる「具体的な該否判定の事例」

https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance_2_jirei.pdf p6 に、CISTECの書式による例が示されている。

この例では「該否判定結果」欄に一つの製品について、複数の項番が列挙されている。(上述の通り、同じ製品でも、貨物等省令の複数の項番に該当する場合があるため、要チェックの項番を列挙し、それぞれについて該否判定を行う。ただし、何から何まで判定するのではなく、輸出しようとする製品のスペック等に基づいて、本当に判定が必要な項番を絞って対応することも必要となる。

また、取り扱い説明書等については書式を改めて、役務の該否判定を行う。

この該否判定書の判定経緯資料として、仕様書や項目別対比表も添付し、保存する。

・左記の書式は基本的には社内管理用としても、また、顧客や経産省に提出する書記としても支障はない。 対外的に提出する場合、ヘッダーのハンコ欄は整理した方が良いだろうが、社印は必須ではない。

該否判定の結果、非該当となった場合:「非該当証明書」

 

該非判定は輸出者自身の責任で行う必要があり、ある貨物に輸出申告をする場合、リスト規制に該当しないことを証明する書類等(非該当証明書等)を用意して税関に説明を求められる場合がある。 

社印は必須ではない。

 

経済産業省 「非該当証明書について」

 https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply04.html

 

本文例

「当 社 が 該非判定を行った 結果、 以下の貨物 は輸出貿易管理令別表第1の1から15までの項のいずれの項にも該当しないことを証明します 。なお、輸出貿易管理令別表第1の16 の 項には該当します。」

 

この書式を発行するにしても、上記のような該否判定を行い、該否判定書の判定経緯資料として、仕様書や項目別対比表も添付し、保存しておく。

 

       該否判定の結果

           

        _____________________________   

  ↓                 ↓

リスト規制に該当          リスト規制に該当しない (非該当)

  ↓                 ↓

 輸出許可が必要                           キャッチオール規制の確認 

 

                     

例外規定

無償告示、少額特例、部分品特例などの例外が使える場合は、輸出許可は必要ない。

                   

今回の取引で特例包括許可を使うことはできるか?

       ↓           ↓

  Yes 特例適用可        No 特例適用不可

  ↓                ↓

  ↓                                      包括許可の確認 →包括許可で輸出

    (少額特例ではA,B,C,D国/イロハニの対応を確認)                     

      ↓                                          包括未取得/包括適用不可

  ↓                 ↓

   許可申請不要                              許可申請が必要

  ↓                ↓

  取引審査            取引審査

    ↓  ↓                ↓     ↓ 

取引実行 取引見送り                             許可申請 許可申請見送り

  ↓                    ↓

出荷確認                 出荷確認

貨物が非該当品目と該当品目から構成されている場合

(1) 原則: 輸出許可申請が必要

(2) 例外:  ① 「部分品特例」(運用通達で認めている特例)

35%ルール

装置そのものは非該当であっても、技術提供が伴う場合は注意が必要

  • その非該当の装置の「使用」の技術の提供も行う場合は、技術提供についても該否判定を行う必要がある。
  • その非該当の装置を製造するための技術提供を行う場合は、その製造技術、検査技術が外為令別表で規定されているかを確認の上、技術提供についての許可要否を判断する必要がある。提供範囲を具体的に契約書上明記する。製造した装置の最終需要者の確認も必要。
  • 非該当の製品を製造するための製造ラインを海外に出す場合は、装置そのものではなく製造工程で使われている製造装置や中間生成物の該非も確認する必要がある。

別表第一の 16の項の貨物:

関税定率法別表第25類から第40類まで、第54類から第59類まで、第63類、第68類から第93類まで又は第95類に該当する貨物(一から一五までの項の中欄に掲げるものを除く。)で、別表第三に掲げる地域以外の国や地域に輸出する場合は、経済産業大臣の許可が必要となる。これは、いわゆるキャッチオール規制対象品目である。