日本に安全保障貿易管理法令があるのと同様、米国にも安全保障貿易管理法令があるが、米国では汎用品目と武器品目とでは適用される法令が異なっている。
・汎用品目:輸出管理改革法(ECRA)とその下位法の米国輸出管理規則(EAR)により規制される。
・武器品目:武器輸出管理法(Arms Export Control Act)に基づく国際武器取引規則(ITAR)により規制される。
日本の場合は外為法と関連する政令、通達により一本化(だいぶ複雑だが)に一本化されている。
(1) EAR (Export Administration Regulations)
武器にも民生品にも使用できる、いわゆる Dual Use品について定めたのがEAR である。
EARは米国商務省産業・安全保障局(BIS: The Bureau of Industry and Security)が管轄している。
EARは CFR:Code of Federal Regulations(連邦行政命令集)の15分冊「Commerce and Foreign Trade」Title 15: Commerce and Foreign Tradeに収録されている。
したがってEARは「第1条」から始まるのではなく、 Part 730からPart 774に という、日本人からみると中途半端な採番になっている。
EARの他には、例えばその21分冊が「Food and Drug」であり、FDAアメリカ食品医薬品局 (Food and Drug Administration) が管轄している。
https://www.govinfo.gov/app/collection/CFR
(2) なぜ、EARなのか?
日本の外為法:貨物は日本からの輸出時、技術は提供時に適用される。一方、なぜ、米国の輸出管理が日本でも必要になるか。
・EARは米国からの輸出のみならず、輸出された国からの再輸出時にも適用される。米国から日本に輸出し、更にそれを日本から他国に輸出する場合、日本の外為法とともにEARの規制も受ける。これを再輸出規制という。
守らないと輸出禁止、懲役、罰金の処置を米国政府から受ける。もちろん、米国にいなければこれらの処置は適用されない。
・しかし、EARに違反するとDenied Personに指定される。これに指定されると米国企業のみならず、米国企業と取引をしている米国外の企業とも取引が出来なくなる(米国企業・個人はDenied Personsとの取引が禁止されている。米国以外の企業・個人はEAR規制対象品目のDenied Personsとの取引が禁止されている。)それにもかかわらずDenied Personと取引すると、今度は自分がDenied Personに指定され、米国関連の事業ができなくなってしまう、という間接的な効果がある。
・つまり、米国の再輸出規制は、わが国の輸出者に対しては直接的な法的強制力はないが、日本など米国以外の国から第三国へ米国製品を再輸出するときに実質的な縛りとなる。
Denied Person, Entity Lost, OFACのSDNリストを統合したConsolidated Screening List (CSL)
https://www.trade.gov/consolidated-screening-list
(3) EARの規制対象
EARはほとんどすべての品目をその規制対象とし、例外規定 LE (license exception)で規制から外してゆく、というスタンスをとっている。
日本の場合は、規制対象品目を限定して扱っている点で、扱いが異なる。
(4) 一般禁止事項 GP General Prohibitions
パート736では一般禁止事項として10項目を掲げている。これらに該当する場合、EAR の適用範囲となる輸出、再輸出及びその他の行為は、産業安全保障局(BIS)から輸出許可を受けるか、許可例外(LE) が適用できない限り行うことができない。
CCLで5桁の番号(ECCN)が付されている品目についてのリスト規制 |
1 |
許可対象国向け輸出・再輸出はできない。 |
2 |
米国原産品目の組込比率がデミニミスレベルを超えた海外製 組込品の輸出・再輸出はできない。 |
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3 |
米国から導入した技術に基づいて米国外で製造された直接製品の輸出・再輸出はできない。 米国技術により製造された外国製品(直接製品)の規制仕向国:Country Group D:1及びE:1 |
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CCLで5桁の番号(ECCN)が付されている品目のみならず、番号がなくEAR99と扱われるものを含むEARの全品。 |
4 |
Denial Orderで禁止されている Denied Personとの取引はできない。 |
5 |
禁止された用途・顧客向け輸出・再輸出はできない。 |
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6 |
禁輸国向けの輸出・再輸出はできない。 |
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7 |
拡散行為に対する米国人・企業の支援はできない。 |
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8 |
経由規制国を経由した輸出・再輸出はできない。 |
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9 |
輸出許可・許可例外の条件等への違反をしてなならない。 |
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10 |
違反が起きた/起きることを認識した取引をしてはならない。 |
(5) OFAC規制
① 米国財務省外国資産管理室(OFAC:Office of Foreign Assets Control)が課す、外交政策・安全保障上の目的による経済制裁。制裁対象者を指定して、取引禁止や資産凍結などの措置を講じる。
・リスト https://sanctionssearch.ofac.treas.gov/
・制裁のプログラム https://ofac.treasury.gov/sanctions-programs-and-country-information
②一次制裁
米国との接点(U.S. Nexus)がある者が制裁対象者と取引を行った場合、資産凍結や取引禁止措置がなされる。原則として米国人や米国産品が制裁対象者と関係するケーを指す。
しかし「米国との接点(U.S.Nexus)」は広く解釈されており、例えば米国とは関係の無い日本企業が制裁対象国とUSドル建てで取引を行う場合、USドル決済には米国金融機関が関与することがほとんどのため、その米国金融機関に勤務する米国人が巻き込まれた(米国との接点が生じた)として、送金停止されることもある。
③二次制裁
日本の企業が制裁対象者と取引するも(あるいは取引相手は制裁対象者ではなくても、送金(米ドル以外)をしてきた現地銀行が制裁対象の場合など)「米国との接点(U.S.Nexus)」がない場合、本来はOFAC規制の対象とならない。それでも制裁対象者と取引したこと自体を以て、日本の企業が制裁対象リストに掲載されてしまう恐れもある。
③ 参考
・巣鴨信用金庫の下記説明が分かり易い。
https://www.sugamo.co.jp/guide/jyuyo/ofac.html
・みずほ銀行のOFAC違反事例
https://www.mizuhobank.co.jp/retail/tetsuduki/gaikoku_soukin/ofac_jirei/index.html
キューバ
テロ支援国(E1)ではないが、EAR99のものでも輸出許可が必要 Supplement 7 to 746
イラン